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業界最薄の独自ファンを開発

 一方、電動ファン付きウエアの注目製品は、アイリスオーヤマの「クールウェア」と、アシックスの「AIR CONDITION WEAR」だ(表2)。

表2 電動ファン付きウエア2製品の仕様比較
クールウェアは、アイリスオーヤマの卓上扇風機「サーキュレーター」のプロペラ技術をファン設計に生かした。一方のAIR CONDITION WEARは、アシックスのスポーツへの知見をつぎ込み、手を差し込んで冷やす「ハンドクーリング」機能を備える。(写真:スタジオキャスパー)
表2 電動ファン付きウエア2製品の仕様比較
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 クールウェアは、累計販売台数が700万台を超えるアイリスオーヤマの卓上扇風機「サーキュレーター」のチームが開発を担い、これまでに培ってきたノウハウを設計に生かしたという(図7)。

図7 サーキュレーターのプロペラ設計技術を応用
図7 サーキュレーターのプロペラ設計技術を応用
累計販売台数700万台を超えるアイリスオーヤマの「サーキュレーター」は、ドーム形状の筐体から直進性の高い風を送り出す(a)。電動ファン付きウエア「クールウェア」ではサーキュレーターのプロペラ設計の知見を応用した。静音化と、ムラのない風を送り続けることを目的に、9枚羽という電動ファン付きウエアとしては多い羽の枚数のファンを採用している(b)。(写真:アイリスオーヤマ)
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 ファンの設計で優先したのは静音性だ。開発者の福増一人氏(家電開発部 季節家電夏チームマネージャー)によると、「従来製品に搭載されているファンのプロペラ数は、5枚または7枚が多いが、それだと羽と羽の間に隙間が生じるため、騒音が大きかったり、作り出す気流にムラができたりする」。そこで、クールウェアのファンはプロペラ数を9枚にした。「そうすることでプロペラ同士の間隙が小さくなり、外気を常時吸気できるようになった。振動や音が発生する要因を減らせる上、滑らかに風を送り続けられる」(同氏)とする。

 さらに、着用時の違和感を軽減するため、ファンを34mmという薄型に設計した。他社製品と比較して、「最も薄い」(同氏)という。

ハンドクーリングで高効率冷却

 アシックスのAIR CONDITION WEARは、スポーツ用品の開発で蓄積してきた身体や運動に関する知見を生かした。テニスの試合のコートチェンジ(90秒)などアスリートの休憩時間や競技終了後の着用、夏場のスポーツ観戦での使用を想定する。福田氏によると、「冬場のアスリートは休憩中、ベンチコートを羽織って体温を調節するが、夏場にはそれがなかった。夏用のベンチコートを目指して開発した」という。アスリートの間では吸汗速乾素材のウエアが浸透しているが、より効率的に体を冷やせる製品を目指した。

 最大の特徴は、手を局所的に冷やすことで体全体に涼感をもたらす「ハンドクーリング」機能の搭載だ(図8)。「手の平には毛細血管や熱を感じる神経が多く通っているため、それを冷やすことで爽快感が得られる」(福田氏)。そこで、前身ごろに通常のポケットとは別に、手を冷やすためのスリットを用意した。スリットに手を差し込むと、衣服内の冷気に手の平をかざすことができる。

(a)ハンドクーリング用スリット
(a)ハンドクーリング用スリット
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(b)実証実験の結果
(b)実証実験の結果
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図8 手を冷やすことで効率的に冷却
アシックスの 「AIR CONDITION WEAR」には前身ごろの両サイドにスリットがあり、手を入れると衣服内の新鮮な空気に触れて涼感を得られる点が大きな特徴(a)。手には熱を感知する神経が集中しているため、手を冷やすことで体全体が冷たく感じる「ハンドクーリング理論」を応用した。アシックスが実施した実験によると、運動休憩時に5分間使用すると平均皮膚温度が1℃から1.5℃下がったという(b)。(図と写真:アシックス)

 ハンドクーリング機能の実装では、衣服内の気流づくりに苦心したという。「首や袖口に十分な風を流し込みながら、ハンドクーリング用に腹部にも空気を回さなくてはならない」(同氏)からだ。そこで、過去の知見が生きた。同社はラケットを振った時に生じる空気の流れを効率的に衣服内に取り込むウエアを開発している。そのウエアの構造を、今回の製品の一部に反映したという。

バイタルセンシングで自動化

 今後の暑熱対策製品の進化の方向性は、ユーザーの生体情報(バイタル)のセンシングによって、個人の身体状態に合った快適性を自動で提供することだろう。ソニーのREON POCKETはすでに歩行検知機能を備えるが、それをさらに進化させる。

 例えば富士通ゼネラルは、体温や自律神経系の状態の指標である心拍変動(HRV)のデータから、自動で温度を制御することを計画している。

 もっとも、冷却効果を定量的に評価するには、体表面温度やHRVだけでは不十分で、脳や臓器の温度である「深部体温」を計測する必要がある。だが深部体温は通常、食道や直腸にセンサーを挿入して測定するため、データを得るのは容易ではない。

 こうした中、IoT製品を開発するミツフジは2020年3月、リストバンド型やイヤホン型のウエアラブル製品から取得する心拍データを使って、深部体温の上昇変化量を推測するアルゴリズムを開発したと発表した。こうした技術が今後一般化すれば、個々のユーザーごとに非侵襲で深部体温をモニタリングしながら、身体を的確に冷却するデバイスが実現する可能性がある。