全2928文字
PR

戸田建設は2007年から取り組み

 国内における浮体式洋上風力の実証で先行するのが戸田建設だ。同社は2007年に1/100スケールの実験を始め、2009年には1/10試験機を佐世保港内に設置。2012年6月以降は長崎県五島市沖で1/2スケールで100kW級の試験機、2016年4月からは2MW級の実証機(設置は2013年10月)で運用を続けていた(図11)。

[画像のクリックで拡大表示]
(写真:©西山芳一)
(写真:©西山芳一)
[画像のクリックで拡大表示]
図11 戸田建設は浮体式風車向けに超低コストの台船を建造
戸田建設が以前から進めてきた長崎県五島市沖での浮体式風車を用いた風力発電の実証事業の様子(左)。独自開発したスパー型の浮体と2016年3月から2MW級の風車(日立製作所製)を組み合わせて、実証運転中だ。同社は2018年5月に吉田組と共同で、環境省の支援を受けて浮体式風車にも対応した台船を開発した(右)。クレーンがないため、一般のSEP船に比べて建造費は1/10で済むという。

 一方で、同社は風車の運搬や設置用のスパッド台船も吉田組と共同開発した。10MW級の大型風車も扱えるという。大型クレーンが不要なことで、「建造コストは一般のSEP船の1/10。しかも2年で作れる」(戸田建設)という。つまり、案件が具体化してから建造を始めても十分間に合うわけだ。

スパッド台船=「スパッド(spud)」と呼ばれる4本の“足”付きの台船。スパッドは甲板を貫き、上下に動かせる。これによって、港湾や遠浅の海に錨無しで船を固定でき、しかも甲板を潜水させることもできる。サルベージ用に使われることが多い。

港で製造しそのまま沖へ曳航

 戸田建設が開発した浮体は、「スパー(円筒)型」と呼ばれる、釣りの長い浮きのような形状をしている。およそ下半分はコンクリート製、上半分は鋼鉄製のハイブリッドタイプだ。欧州で戸田建設と同様、浮体式に早期から取り組んできたEquinorもスパー型を採用している。

 ただ、浮体には他の形状もある(図12)。はしけ船(バージ)のように喫水が浅い「バージ型」や、一部を潜水させる「セミサブ型」などだ。最近は、スパー型以外のタイプを開発して浮体式洋上風力発電に乗り出す企業が増えてきた。

(a)浮体式風車の浮体の種類
(a)浮体式風車の浮体の種類
[画像のクリックで拡大表示]
(b)浮体の種類と典型的寸法、採用企業など
(b)浮体の種類と典型的寸法、採用企業など
[画像のクリックで拡大表示]
図12 浮体式は喫水の深さで2種類に大別
浮体式風車の主な種別を示した(a)。それぞれ、細かな違いで多くの派生タイプがあるが、喫水の深さでは2種類に大別できる。喫水が100m以上のスパー型、30m以下のパージ型やセミサブ型である(b)。スパー型を採用したのはノルウェーEquinorや戸田建設。一方、パージ型やセミサブ型は採用する企業がやや多い。

 例えば、三井造船や仏Naval Energies、東京ガスが出資した米Principle Powerはセミサブ型を採用。日立造船、そしてJERAと組んだ仏IDEOLはバージ型を採用する。

 セミサブ型やバージ型の最大の強みは喫水が浅いことだ。スパー型の喫水が100m前後と深いのに対して、セミサブ型やバージ型は7~30m。セミサブ型はバラスト水の出し入れで喫水を調節もできる。港によっては波止場から曳航して沖に出られる(図13)。SEP船などが不要なのある。

(a)港湾で流れ作業で浮体と風車を組み立て
(a)港湾で流れ作業で浮体と風車を組み立て
[画像のクリックで拡大表示]
(b)港から沖まで曳航する様子(Principle Power)
(b)港から沖まで曳航する様子(Principle Power)
[画像のクリックで拡大表示]
(c)日立造船の浮体を用いた北九州市沖での実証機の様子
(c)日立造船の浮体を用いた北九州市沖での実証機の様子
[画像のクリックで拡大表示]
図13 バージ型/セミサブ型は港から曳航できるのが強み
Principle Powerのセミサブ型浮体と風車の建造ラインのイメージ(a)。港湾の地上部で浮体を作り、それを海に浮かべてから風車部分を設ける。そしてそれを曳航船で牽引して、沖合の風力発電ファームまで移動する(b)。バラスト水の出し入れで喫水は制御できるという。日立造船は喫水が7m台と浅いパージ型の浮体を開発済みだ(c)。(写真:(a~b)はYouTubeのPrinciple Powerの動画からキャプチャー、(c)は日立造船)

 実際、Principle Powerは、港湾上で浮体と風車を流れ作業で組み立て、それをそのまま海に浮かべて沖まで曳航することを想定する。「セミサブ型の多くは喫水が浅くても10~15mで、日本の港の多くは対応できない」(ある風力発電事業の関係者)という指摘もあるが、まったくないわけではなく、現状より選択肢が大きく広がるのは確かだ。

 こうした点は、第2部の「主役は陸上から洋上へ 風車版“ムーア則”も再起動」で触れるように、着床式との発電コスト差を縮める上でも有利に働きそうだ。