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これまで陸上風力発電が主流だった海外でも、より大規模化しやすい洋上風力発電の導入が本格化し始めた。発電コストは急速に低下しており、陸上風力に迫りつつある。当初は着床式が先行するものの、長期的には浮体式が規模や発電コストで洋上風力発電の主軸になる可能性が高い。

 世界の風力発電は日本のはるか先を行っている。世界全体の導入量は2019年末で約650.7GW(図1)。年間発電量で日本全体の電力需要を賄なっておつりが来る水準だ。トップは中国、2位は米国、3位はドイツとなっている。ドイツは61GWで、経済産業省の想定での2030年の導入規模である約10GWの6倍。一見すると日本はとても追い付けそうにない。

図1 世界は651GWの風力発電を導入済み
図1 世界は651GWの風力発電を導入済み
2019年末における国・地域別陸上風力と洋上風力を合わせた累計導入量の比較。世界全体では約651GW分が導入されている。(図:ドイツWorld Wind Energy Association(WWEA)の調査データを基に日経エレクトロニクスが作成)
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 ただ、現時点の風力発電の世界の導入量は、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)が2050年に目指す導入目標である6044GWからするとまだ1割強に満たない。42.195kmのマラソンに例えれば、スタート時点でのトラブルで先頭ランナーからいきなり4.5kmほど差を付けられた状態だ。差は小さくはないが、マラソンは長丁場。その程度の差がついた後に、先頭のペースが急に鈍って逆転することはあり得る。

 実際、これまで導入された風力発電の大部分は陸上風力発電だが、その導入ペースは一部地域では急激に鈍っている。例えば、ドイツでは2017年まで4G~5GW/年のペースで増えていた陸上風力が、2019年は1GW増にまで大幅にペースダウンした。ドイツが2000年に固定価格買取制度(FIT)を導入して以来、最も少ない導入量だという。2020年の増加も同程度とみられている。

反対住民との訴訟騒ぎに

 ペースダウンの理由はコロナ禍も含め幾つもあるようだが、最大の要因は景観や騒音環境の悪化に対する住民の反対などで陸上風力の設置場所の選定がいよいよ難しくなってきたことだ。

 住民の訴訟が相次いでいることで、2019年時点で2000基、約11GW分の建設計画が宙に浮いた格好になったもようだ。住民の一部はドイツの国会議員に働きかけて風力発電に対する規制強化を迫るまでになっている。具体的には2019年、住宅地や空港などから1km以内のエリアに新たに風車を立てることを禁止する法案が提出され、国民的議論になった。同法案では、既に設置されている風車についても、設備更新の際には適用される。これに危機感を持ったドイツの連邦環境庁は、「陸上風力の設置可能面積が最悪2~5割減ってしまう」と警告した。

 もっとも、多数のドイツ人は基本的に再エネ推進政策を支持しており、この法案は可決されていない。この件は2020年6月になって国全体ではなく、連邦州ごとに住宅との距離基準を制定することで一応決着した。

 いずれにせよ、ドイツで陸上風力を大幅に増やすことが事実上難しくなっているのは確かといえる。

英米インドが2030年に30GW

 これはドイツに限らず世界的な傾向といえる。代わりに注目を浴び始めたのが洋上風力発電である(図2)。これまで最も洋上風力に熱心だった英国が「2030年に30GW」という導入目標を掲げると、インドや米国も同様な目標を掲げ始めた。米国やインドの洋上風力はまだ始まったばかりという点で日本とほぼ同じスタートラインに立っている。ただ、そこから10年で30GWを導入するスピード感は、日本(経済産業省)と大きく違う。

図2 洋上風力は英国、ドイツ、台湾が世界をリード
図2 洋上風力は英国、ドイツ、台湾が世界をリード
洋上風力発電の国・地域別の主な導入量の実績(2019年)と予測。英国は2030年までに約12GW増やす計画。米国は現時点で稼働している洋上風力発電はわずかだが、2030年に30GWにする目標を立てている。欧州全体では2050年に450GWという目標がある。地中海を含む海に面した国のほとんどが英国並みに積極的に導入すれば達成できる。(図:日経エレクトロニクス)
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 ドイツは以前からの北海での洋上風力建設プロジェクトの建設がほぼ完了し、建設ラッシュが一段落した状況だったが、2020年7月に新しい導入計画を発表した。「洋上風力を2030年に20GW、2040年に40GW」というもので、米国などに比べるとやや慎重だが、やはり日本よりは速いペースだ。