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半導体製品の製造工程を活用し、シリコンウエハーなどに微小な可動部品を構築するのがMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)である。このMEMSは、ウエハー内に微細部品が動作するための極小空間を設ける点でICのような半導体製品と異なる。この構造の違いによって、MEMSのパッケージングの工程においては、この空間にどのようにフタをするかが重要になる。本連載では、MEMS技術の第一人者である、東北大学大学院工学研究科ロボティクス専攻/マイクロシステム融合研究開発センター教授の田中秀治氏がMEMSのウエハーレベルパッケージング(WLP)の基礎について解説する。(日経クロステック)
BAWフィルター(弾性波フィルター)には、共振子の構造として、図1に示すようにSMR(Solidly Mounted Resonator)とFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)の2種類がある(参考記事)。SMRは、音響インピーダンスの異なる2種類の膜からなるブラグ反射器によって、また、FBARはエアギャップによってウエハーから音響的に分離されている。
SMRにはエアギャップがないので、ウエハーレベルパッケージング(WLP)にあたっての制約は緩い。実用上、SMRは気密封止する必要はなく、また、壊れやすい構造がないので、WLPプロセスの自由度は高い。そこで、図2に示すようなDFR(Dry Film Resist)を用いたWLPが用いられている(参考記事)。DFRをラミネータでウエハー上に貼り、それを露光・現像してパターニングし、パッケージの壁やビアを形成する。屋根もDFRで形成するが、壁の上にウエハーとの空間を保ってDFRを貼ってパターニングする。これをテント張りと呼ぶ。最後に、屋根の上にビアとつながるボンディングパッドをめっき等によって形成する。DFRを用いたWLPは低コストであることが特長である。ちなみに、DFRを用いたWLPは、SAW(Surface Acoustic Wave)フィルターにも適用される。

FBARにはエアギャップがあるので、DFRを用いたWLPは適用しにくい。そこで、図3に示すように慣性センサーのそれと同様のWLPが用いられる。やはりボンディングパッドはキャップウエハー上に形成される。そのため、キャップウエハーにはTSVが形成され、キャップウエハーとFBARウエハーとはAu等を用いて金属接合される。このWLPはDFRを用いたWLPよりおそらく高コストであるが、放熱の点では有利である。放熱性は、耐電力性や温度上昇による周波数ずれに直接的に関係するため、4G以降、重要視されている性能である。
