政府機関や大企業に限られていた3Dデータの生成が手軽になってきた。ベンチャー企業による安価な衛星の実用化、ドローンやLiDARの普及、フォトグラメトリーを実現するアルゴリズムの性能向上などが背景にある。共有基盤の整備も始まり、誰でも手軽に3Dデータを生成して流通させられる動きが始まっている。
複写世界を創り出す上で欠かせない3次元(3D)データを生成する手法が、より身近になってきた。これまで政府機関や大企業に限られていた3Dデータ生成が、小企業や個人でも行えるようになってきたからだ(図1)。
プラットフォーマーが持つ3Dデータを公開する共有基盤の整備も進む。生成から共有まで様々な手段が生まれたことで、3Dデータの流通はさらに加速する。
観測用の人工衛星を民間が手掛ける
人工衛星は、これまでも大規模な3Dデータを取得するために用いられてきた、有力な手段の1つである。ただし、軍事や資源開発、研究のために政府機関や大企業が保有してきた。こうした人工衛星の打ち上げをベンチャー企業が担う時代になってきた。
例えばSynspectiveは、合成開口レーダー(SAR)を搭載した小型人工衛星「StriX」を開発。従来のSAR衛星と比べて高い地上分解能と小型・軽量化を両立した(図2)。
同社は複数の衛星を連携させた観測システムの運用や収集したデータの販売・解析も手掛ける。StriXは2020年内に打ち上げる予定で、2022年までに6機、2025~30年の間に30機まで増やす。主要都市の観測データを毎日取得できるようにするため、衛星の数を増やすことで「高頻度で安定的にデータが取れるようになる」(同社ソリューション開発部ゼネラルマネージャーの今泉友之氏)。
SAR衛星の特徴は、可視光を用いる光学衛星と違ってマイクロ波を用いることで、昼夜や天候に左右されずに地表面の形状を3次元的に観測できることである。SAR衛星を定点観測に用いれば、地盤や建物などの変動をミリ単位で計測できる。
同社が2020年9月に提供開始した「Land Displacement Monitoring」は地盤変動のモニタリングサービスだ。埋め立て地にある空港の地盤沈下や重要なインフラ施設周辺の地殻変動などをSAR衛星で観測する。現地に行かなくても衛星データでモニタリングを代替できるようになる。
衛星写真で3D化し都市情報を可視化
衛星データが市場に流通し手軽に利用できるようになると、民間企業での活用例も増えていく。KDDIは米Sturfeeと衛星写真を用いた3Dマップ作りに取り組む(図3)。AR(Augmented Reality)用途で、写真から特徴点を抽出し生成した3Dマップを利用する。現実世界と3Dマップの特徴点を比較して、自端末の位置と方向を検出する注1)。
AR以外にもKDDIは、自社や提携企業が持つ他のデータを重ねて表示して可視化するのに3Dマップを用いている。例えば、スマートフォンの位置情報を用いたエリア内の混雑度や、電車の運行状況などのデータを視覚的に分かりやすく提供する。