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(写真:栗原克己)
(写真:栗原克己)

日立製作所は2020年7月20日、「幸福度」の可視化技術を利用した新たな事業を創出するための新会社を設立した。名称はハピネスプラネット(東京・国分寺市)。CEOは、加速度センサーで幸福度を測定する技術開発に約17年間も携わってきた矢野和男氏が務める。同氏に幸福を通じて社会をどう変えるのかを聞いた。(聞き手は野々村 洸、内田 泰)

「幸福度」の可視化はどのような技術で、どういった業種に適用できるのでしょうか。

 加速度センサーを利用して、人間が幸福感・緊張感などを感じた際に生まれる「無意識な筋肉の動き」をモニタリングしています。この筋肉の動きから、動いているときを「1」、止まっているときを「0」とします。この0と1の列に見られるパターンから「幸福度」を導き出します

 当社の技術を生かせる業種は幅広く存在します。製品開発の現場などに大きな変化をもたらすでしょう。これまで開発者は製品単体の完成度を高めることで、ユーザーの満足度を向上することに腐心してきました。でも、製品を利用しているユーザーの利用環境や人間関係などを含めた周辺状況のデータも収集して幸福度を可視化できるようになれば、本当にユーザーが満足しているかなどが分かります。

 例えば、快適な家から一歩進んで「幸せを生み出す家」のようなものが誕生するかもしれません。移動や買い物など行動のどの部分が人を幸せにするかをデータ解析すれば、スマートシティーに向けて新たなサービスを提供できる可能性があります。

 実際、多くの企業から引き合いが来ています。もし、製品を使っている人と使っていない人の幸福度の違いをダイレクトに示せれば大きなインパクトがあるでしょう。今後、「幸福」を物差しにした企業活動が進んでいくと考えています。

 例えば金融業界では、利益の追求が日々の業務の焦点になっていますが、本当は金融サービスの利用者や提供者が幸せになれるかを考えていく必要があると思います。あらゆる業種の人がただ目の前の「欲望」を追求するのではなく、ユーザーを幸福にできるかどうかに視線を向けるべきでしょう。

 もちろん、幸福度の可視化は個人の生き方も変えます。例えば医療や介護の現場には、思うように動かない体にむちを打って、治療やリハビリを続ける必要がある人たちが多くいます。そうした人たちに対して気持ちだけでも前向きになれるようなサービスを提供できれば、治療やリハビリの効果が改善されるかも知れません。

なぜこのタイミングで、新会社の設立に至ったのでしょうか。

 開発を始めた17年前から既に述べたような世界を描いていましたが、いよいよ出番がきたと考えたからです。新型コロナウイルス感染症によって社会に大きな変化が生まれ、新たな価値観の下でリスタートを切るタイミングが生まれたと感じました。もちろん、データ解析などの技術の進化の下支えがあって、ビジネス化が可能になりました。