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苦しい重作業を代替する巨大な遠隔操作ロボットの開発に取り組むのが人機一体だ。力制御による遠隔操作を用いることで、より繊細なフィードバックを操縦者に伝える。ロボット技術の知財を有効活用する基盤作りにも乗り出した。人型重機の特長について同社代表取締役社長の金岡博士に聞いた。(聞き手=東 将大)

金岡博士(かなおか・はかせ)
金岡博士(かなおか・はかせ)
2002年、京都大学博士(工学)。同年立命館大学理工学部ロボティクス学科助手。03年、同学科講師。07年にマンマシンシナジーエフェクタズを設立し代表取締役社長就任、15年に同社を人機一体に商号変更。08年に立命館大学総合科学技術研究機構ロボティクス研究センター客員教授、18年に同センター客員研究員。ビジネスとしての「人型重機」の社会実装に挑む。(写真:日経クロステック)

 「人型重機」と呼ぶロボットを開発した背景には、「人の苦役を無くす」という我が社のミッションがあります。人は何らかの形で、身体的苦痛を伴う苦役に従事せざるを得ない状況にあります。もしそれらを全て機械に任せられるのであれば、当然、人は苦しい作業をする必要はなくなります。

 我々のロボットが「人型」であるのは、人が思いどおりに操ることが、人の作業の代替に必要だと考えたからです。現在の産業用ロボットでは、人の作業を完全に代替することはできないでしょう。ロボットを操るコンピューターの能力が足りておらず、臨機応変な対応や判断が困難だからです。たとえ10年待ったとしても、人の作業を全て代替できるロボットは、おそらく実現しないだろうと思います。

 そこで、判断は人に任せるようにします。苦役の対象は、身体的苦痛を覚えるフィジカルな部分の作業であって、判断することに関してではありません。つまり、人が判断してロボットが遂行するというのが、今考え得る最良の方法なのです。それを実現する上で足りないのは、人とロボットを適切につなげて、身体的、力学的な能力を自在に反映させるためのインターフェースです。ロボットを操作するインターフェースが分かりやすく、かつキャッチーで“映える”形状を選んだら、人型重機の「人型」につながりました。

 もう1つの「重機」の部分に取り組むのは、我々の独自技術が差別化しやすく、より強みを生かせるからです。我々のマスタースレーブ制御やバイラテラル制御といった技術は、大きな力を出すほうが差別化できます。小さなロボットを思い通りに動かすのは意外と簡単にできますが、大きいロボットを動かすのは、そうはいかない。ハードウエア的にもソフトウエア的にも高度な技術が必要になってくるのです。他の人ができない、大きなロボットを思いどおりに操れることを世の中にアピールするのが、独自技術のアピールにも有利だろう考え、「重機」となったわけです(図1)。

図1 高さ3m超えの人型重機が高所での重作業を代替
図1 高さ3m超えの人型重機が高所での重作業を代替
JR西日本と日本信号、人機一体の3社共同で開発を進める人型重機「空間重作業人機」。クレーンの上に人型重機を載せたことで、高い場所での重作業に対応する。写真は試作機である「零式人機 ver.1.0」で、目の部分には立体視用の両眼カメラを、手には3本指のロボットハンドを備える。(写真:日経クロステック)
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