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 人間拡張の対象は、これまでの肉体から今後は認知や感覚・完成など「精神」へと開発の軸足が移る。そのとき、鍵となるのが、まだ未知の部分が多い脳機能の解明である。

 一口に人間拡張と言っても、拡張する対象や実現を目指す能力は多岐に渡る。例えば、産総研の人間拡張研究センターでは、同技術を「身体機能」「コミュニケーション」「感覚機能」「認知分析」の拡張の4つに分類している。ただし、実現に必要なテクノロジーの進展度合いなどに応じて、開発のフェーズはそれぞれ異なっている。まだ研究室段階のものもあれば、既に製品化、サービス化が進んでいるものも多い。

 これまでの開発では、ロボットアームや外骨格(エグゾスケルトン)を用いた身体機能、つまり「肉体的な拡張」が中心だった(図1)。例えば外骨格であるアシストスーツは、サイバーダインの「HAL」シリーズをはじめとして複数の企業が製品化し、労働集約型の現場で身体能力の支援のほか、介護やリハビリ用途でも活用されている。

図1 人間拡張の対象が肉体から脳、精神へと変化
図1 人間拡張の対象が肉体から脳、精神へと変化
人間拡張はこれまで、肉体的な領域を中心にロボットアームや外骨格を用いた技術が多かった。今後は衣服やウエアラブル機器による生体情報のセンシングや、BMIを用いた脳活動の分析などで人の内面の解明が加速し、認知や感性など精神的な領域へと広がっていく。テクノロジーの進化で脳機能がさらに解明されることで、新しい能力を獲得できるようになる。(写真:左上から右へ順に、科学技術振興機構、日経クロステック、大和ハウス工業、日経クロステック、 Neuralink。図は日経クロステック)
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 今後は、生体情報のセンシングやBMIを用いた脳活動の分析など人間の内面の可視化が進展する。それによって、認知や感覚・感性など「精神的な拡張」へと開発の軸足が移っていくだろう。

 精神的な拡張は、単に力が強い、足が速いといった物理的に強化された人間とは異質の超進化型人間の実現に導いていく。例えば、メンタルの状態を自在にコントロールできたり、ゾーン(極限の集中状態)に意図的に入ったりすることができるようになれば、社会的にも大きなインパクトが生まれる。