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エネルギー密度の低さが課題だったナトリウムイオン電池(NIB)だが、認識を大きく改める必要が出てきた。東京理科大学が開発した負極材料が非常に高容量で、セルの重量エネルギー密度でも既存の高容量リチウムイオン電池(LIB)を上回る見通しだからだ。加えて、金属ナトリウムを負極にしたさらに高エネルギー密度の電池も登場しつつある。専ら定置型向けだと考えられていたNIBが車載向けにもなる可能性が出てきた。

エネルギー密度の低さが課題

 ただし、これらのPBAの容量密度はLIBの一般的な正極活物質の約1/2。正負極共に低く、電位差も小さいことで、セルでは重量エネルギー密度が最大でも33Wh/kg、体積エネルギー密度も66Wh/LとLIBのセルの1/10近く、言い換えると鉛蓄電池並みになってしまう1)。ただし、5分で満充電にできるなど充放電レートが高いことで鉛蓄電池に対する優位性はあるようだ。

 PBAでない材料を使ったとしても、NIBには、LIBに対して“0.3Vのハンデ”がある。これは、金属Naの析出電位が、Liのそれより0.3V高く、LIBと同じタイプの正極材料を使うとその分、出力電圧が低くなるという原理的な制約である。

 もちろん、LIBで利用している高電位の正極活物質と類似の材料を使って、エネルギー密度を高めたNIBもある。金属Naを負極に用いているフィンランドBroadBit Energy Technologiesを別にすると、NIBベンチャーの試作例では、英Faradionの重量エネルギー密度155Wh/kgのNIBセルが現在のほぼ最大値のようだ。出力電圧は最大4.3Vと、ハンデを負っているとは思えないほど高い。ただし今度は、NIBの特徴の1つである高い充放電レートがLIB並みに低くなってしまっている。

負極材料に革新

 最近の研究成果によって、NIBにつきまとうエネルギー密度についての課題が払拭される可能性が出てきた。その道を開いたのは、先に触れた、東京理科大学の駒場研究室と、物質・材料研究機構、岡山大学の共同研究である(図4)。

図4 LIBに電圧で負けても放電容量では勝てる
図4 LIBに電圧で負けても放電容量では勝てる
東京理科大学の駒場研究室が2020年12月に発表したNIB向け新規ハードカーボンの放電容量。NIBは負極電位がLIBより0.3V高いという不利な状況にあるが、負極の容量密度ではLIBの黒鉛を3割以上上回ったことで、エネルギー密度でも約2割、LIBを上回る可能性が出てきた。NIBのセルのエネルギー密度は、正極活物質としてP2型Na2/3Ni1/3Mn1/2Ti1/6O2を想定した場合の値。(図:東京理科大学の資料を基に日経クロステックが作成)
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 駒場氏らが開発した負極材料は以前からNIBに使われているハードカーボンだが、その製法を変えることで容量密度が大幅に高まったとする。

ハードカーボン(難黒鉛化性炭素)=炭素材料の1タイプ。有機材料を焼結して得られる炭素材料は大きく、黒鉛かそれに近いもの、ソフトカーボン、ハードカーボンの3つに分類できる。黒鉛は炭素原子が規則的に並んだ結晶構造を備える。一方、ハードカーボンでは、炭素の並びや結合の規則性が低く、比表面積が大きいため、容量密度を黒鉛より高められる可能性がある。ソフトカーボンは焼結温度を高めると黒鉛に近づく炭素材料である。

 具体的には、グルコン酸マグネシウム(Mg(C6H11O72)とグルコースの混合物をまず600℃で前処理加熱することで、ナノサイズの酸化マグネシウム(MgO)粒子が形成され、それが空孔の鋳型になる。次に、塩酸でMgOを除去した後に無酸素下1500℃で熱処理する。すると、ナノサイズの空孔を多く持つハードカーボンが得られる。その可逆容量密度は実測値で478mAh/g。黒鉛の理論値である372mAh/gを約3割上回る(図4)。

 もともと、ハードカーボンはNaイオンの容量密度が比較的高いが、その構造はランダムに近く、容量密度のバラつきを制御できていなかった。今回、その構造をMgOの鋳型によってある程度デザインすることができようになり、高い容量密度を安定的に得られるようになったわけだ。

エネルギー密度でLIB超えも

 実際の黒鉛の容量密度は理論値よりも小さい300m~350mAh/g程度。このため、5割近い容量アップを期待できる。結果、電圧のハンデを相殺するだけでなく、エネルギー密度でLIBを2割以上も上回る可能性がある。

 東京理科大学によれば、正極活物質にP2型Na2/3Ni1/3Mn1/2Ti1/6O2を想定するとエネルギー密度が358Wh/kgのNIBのセルも作成可能だという。「P2型Na2/3Ni1/3Mn1/2Ti1/6O2は、(LiCoO2などと異なり)深い充放電でも安定性が高い」(東京理科大学の駒場氏)ため、358Wh/kgは理論値ではなく、実現可能な値だという。