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国内のドローン市場に地殻変動が起きている。点検、農業、物流といった産業用途でのドローン活用の本格化と、中国製ドローンに対するセキュリティーの懸念を背景にした国産ドローンの特需だ。このチャンスを逃すまいと、機体事業にソニーなどが参入した。一方、都市部での飛行解禁が2022年12月ごろに決まり、実現に向けた準備が進められている。

 「社内にはドローンは既にコモディティー化したという意見もあった。しかし、2つの点で我々が取り組む意味があった。1つは、新たなドローンによってクリエーターの創造力を高めることができること。もう1つは、産業ドローンに求められる技術はこれまでのホビー用と比べてかなり高度で、そこにソニーのテクノロジーを生かせることだ」

 ソニーグループは2021年10月下旬以降に、自社開発の空撮用ドローン「Airpeak S1」を発売する(図1)。映像制作に携わるクリエーターに向ける。開発を統括した同社常務AIロボティクスビジネス担当の川西泉氏は、同社がドローン市場に参入した背景を冒頭のように語る。

(a)空撮用ドローン「Airpeak S1」
(a)空撮用ドローン「Airpeak S1」
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(b)主な仕様
(b)主な仕様
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図1 ソニーのドローン第1弾となる「Airpeak S1」
映像制作に携わるクリエーターに向ける。高い運動性能を実現するために、機体のみならずプロペラやモーターなどの部品、制御システムを自社開発した。今後、物流を含め空撮以外の産業用途への展開を目指す。(写真:ソニー、表:日経クロステック)

 S1はクリエーターがこれまでにないような空撮映像を撮影できるようにするため、運動性能にこだわった。例えば、停止状態から80km/hの速度に達するまでに約3.5秒の加速、最大角速度180°/sの旋回性能などだ。さらに最大風圧抵抗で20m/sという飛行安定性を実現した。

 「最初は市販品を試してみたが、我々が目指すパワフルなドローンを造るには自らが要素技術を持つ必要があった」(同氏)。そこで同社は独自に機体を設計するだけでなく、プロペラやブラシレスモーターなどの部品から機体を制御するソフトウエアであるフライトコントローラーに至るまで、システム全体を開発した。このため、18年春に開発に着手してから完成までに3年の歳月を要した。