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政府・公共部門や民間のインフラ事業者などの中国製ドローンに対するセキュリティーの懸念を払拭した、国産の“安全安心ドローン”が2021年度内にも離陸する。そして22年12月ごろには、これまで認められていなかった有人地帯(第三者上空)での補助者なしの目視外飛行である「レベル4」が解禁される。将来的に都市部の上空を飛行するレベル4機体の安全性や信頼性の担保に向けた制度整備が進められている。

安全安心ドローンが離陸へ

 昨今、中国製ドローンのセキュリティーに対する懸念は、国内でも政府調達案件や電力会社などインフラを抱える民間企業で高まっており、国産ドローンの開発プロジェクトが複数の組織で進められている。

 その代表例が、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が20年5月にスタートさせた「安全安心なドローン基盤技術開発」(事業期間は21年11月30日まで)だ。同事業の目的は、政府・公共部門や民間のインフラ事業者などの業務ニーズに対応する安全性や信頼性を確保した標準ドローンの設計・開発、および日本のドローン産業の競争力を強化するためのエコシステムの醸成である。

 実はこれまで、日本の政府業務でもDJIの製品が数多く使われてきた。国内のあるドローンメーカーの幹部は「国土交通省が飛行許可を与えたリストでは、DJI製ドローンが約9割を占めるのが実態だった。そこに政府関係者が危機感を覚えたのが開発のきっかけ」だという注1)

注1)日本政府は20年9月に「小型無人機に関する関係府省庁連絡会議(第10回)」において、政府機関におけるドローンの調達方針を示し、21年4月1日以降に調達手続きが開始されるドローンについて、必要な対策を施していない機種の調達が禁止されている。

 NEDOは21年4月、試作機を報道陣に公開した。自律飛行に対応したマルチコプター型の小型空撮ドローンである(図1)。重さは1.7kgで、飛行時間は30分。主に災害状況の確認やインフラ点検などでの使用を想定している。セキュリティーに関しては、機体の乗っ取りや盗撮、データの盗難などを防ぐため「ISO/IEC14508」に準拠したセキュリティー対策を施した。具体的には、通信の暗号化のほかに、ドローンが取得したデータを受け渡す際に暗号化をしたり、クラウドに相互認証の仕組みを入れたりしている。開発中のドローンは21年秋以降に完成し、21年度内の入札を予定している。

図1 NEDO主導の安全安心ドローンの試作機と搭載予定の技術
図1 NEDO主導の安全安心ドローンの試作機と搭載予定の技術
同事業の実施企業であるACSLとヤマハ発動機などが開発中。21年秋以降に完成し、21年度内の現場導入を目指す。災害状況の確認やインフラ点検といった政府調達などに対応したセキュリティー機能を搭載した点が最大の特徴(エンジ色の部分)。機体は重さ1.7kg、幅650mmで、飛行時間は30分。標準カメラとして4Kに対応した1インチ、2000万画素品を搭載する。防じん・防水性能はIP43に対応。航空法の改正によって搭載が義務付けられた識別情報「リモートID」にも、Bluetooth 5.0で対応する。(写真:日経クロステック、図:NEDOの資料を基に改訂)
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 本事業の肝は、開発成果を公開してプロジェクトへの参入を促し、産業ドローンのエコシステムを国内に構築する点にある。具体的には、「フライトコントローラーのAPI(Application Programming Interface)や主要標準部品のインターフェースを公開することで、他のメーカーも機体や部品の開発に参画できる」(経済産業省製造産業局次世代空モビリティ政策室長の川上悟史氏)。

 例えば、今回の事業リーダーを務めるACSL 代表取締役社長兼COOの鷲谷聡之氏は、「事業の終了後にACSLのブランドでの製品化を計画している。インドやASEAN(東南アジア諸国連合)など海外市場への展開も含めて検討している」と言う。

 セキュリティーの確保を目的としたドローンの開発プロジェクトはこれだけではない。21年6月には、ヤマハ発動機を代表機関とするハイスペックドローン開発コンソーシアムが、NARO(農業・食品産業技術総合研究機構)が推進するプロジェクト「安全安心な農業用ハイスペックドローン及び利用技術の開発」を受託したと発表した。23年度までに、高度なセキュリティー機能を有する高性能農業用ドローンの開発・市販化と、栽培管理技術の適用による収量向上(土地利用型作物で10%)の実証を目指すという。「NEDOのプロジェクトでの開発が完了した後に、その技術などを農業用ドローンで活用する予定」(ヤマハ発動機ソリューション事業本部UMS事業推進部長の倉石晃氏)としている。

レベル4施行のインパクト

 21年6月4日、ドローン産業の将来にとって大きなマイルストーンとなる法律が、第204回通常国会で成立した。「航空法等の一部を改正する法律」で、航空法におけるドローンに関する規定を改正し、飛行リスクの程度に応じた新しい飛行規制が導入されることになった。ポイントは、これまで認められていなかった有人地帯(第三者上空)での補助者なしの目視外飛行、いわゆる「レベル4」の実現である(表1)。これによって都市部を始めとして、ドローンの適用領域が大きく広がる可能性がある。

 今回の改正では、機体の安全性を担保するための機体認証制度(第一種と第二種)が新設されるとともに、操縦者には技能証明である操縦ライセンス(一等と二等)の取得が求められることになった。飛行リスクに応じたカテゴリーには、リスクが高い「Ⅲ(レベル4に相当)」、リスクが比較的高い「Ⅱ(レベル3を含む)」、リスクが低いカテゴリー「Ⅰ」の3つがある。Ⅲは、「第一種機体認証」を受けた機体を、「一等操縦ライセンス」を持つ操縦者が、飛行ごとの許可・承認を取得すれば認められることになる。

表1 レベル4の実現に向けた新制度の全体像
(表:国土交通省の資料を基に改訂)
表1 レベル4の実現に向けた新制度の全体像
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 もっとも、業界関係者は都市部での飛行に慎重な姿勢を示しており、都市部において本格的にドローンが活用されるのは、過疎地域や山間部などで安全性に対する十分な実証が積み重ねられてからになるだろう。それでも、レベル4の解禁がドローン産業の拡大にすぐに好影響をもたらすという見方は多い。例えば現状、車が行き交う道路や橋の上をドローンが通過する場合、車が通り過ぎるまで上空で待機したり、橋を避けるルートを通ったりするなど、運用面で手間やコストがかかることが多い。レベル4はこうした制約を取り払うと期待されている。