大林組が2012年に発表し、世間をあっと驚かせた「宇宙エレベーター」構想。この壮大な構想では25年ごろに着工し、50年ごろに運用開始を掲げていた。着工目標まで残り4年と迫る中で、宇宙エレベーターの研究開発はどこまで進んだのだろうか(図1)。
宇宙エレベーターとは、海上に設置した「アース・ポート」と呼ばれる基地から、高度9万6000kmの位置にある最頂部のカウンターウエート(宇宙船などの重り)までをケーブルでつなぐ構造物である。具体的にはまず、静止軌道に設置した建設用の宇宙船と地上を、2本の多層カーボンナノチューブ(CNT)製ケーブルでつなぐ。次にそのケーブルを上り下りする「クライマー」と呼ばれる昇降機が地上と宇宙とを行き来してケーブルを補強しながら、静止軌道ステーションなどの施設を建設する。
最終的に、人工衛星を地球低軌道に投入するための「低軌道衛星投入ゲート」や、火星に向かう出発点となる「火星連絡ゲート」などを宇宙エレベーター上に設ける計画だ。宇宙エレベーターが完成すれば、大量の資材をロケットで打ち上げるよりも低コストで宇宙に運べるようになるとされている。
9万6000kmのCNTが必要
「約9年間研究を続けてきたが、やればやるほど難しい」――。こう話すのは、当初から宇宙エレベーターの研究開発に携わっている大林組技術本部未来技術創造部 上級主席技師の石川洋二氏だ。
宇宙エレベーターを造るための研究テーマは多岐にわたる。例えばこれまで取り組んできたのは、膨大な長さのケーブルの材料となるCNTの実験や、ケーブルのねじれ、落雷の影響、地上から登っていく「クライマー」ロボットなどである。研究を進める上で、「理想に対して実態がケタ違いに離れている」(石川氏)のが現状だという。
例えばCNTは、現状では10~数十cm程度のものしか製造できない。宇宙エレベーターに必要なのは、なんと9万6000kmだ。まず大林組は、CNTの耐久性などについて、国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟にて宇宙環境曝露実験を進めている。15~17年に実施した第1回実験ではCNT材料表面に損傷が見られたため、19年からは第2回実験を実施している(図2)。
第2回実験では、CNT単体の試験体ではなく、金属系とケイ素系の2種類の材料でCNTを被覆した試験体を用いた(図3、図4)。試験体は1年間もしくは2年間宇宙空間に曝露して損傷度合いを確認する。1年間曝露した試験体は21年3月に地上で受け取り、現在静岡大学で解析中だという。2年間曝露した試験体は21年12月ごろに船内に取り込み、その後地上へ送られる予定だ。