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 民間宇宙旅行の相次ぐ成功、加速度的に増えている地球低軌道の人工衛星、そして2022年にも始まる本格的な月探査・開発・・・・・・。高成長産業と目される宇宙ビジネスの扉が、いよいよ本格的に開きつつある。この状況を、過去に2度の国際宇宙ステーション(ISS)の長期滞在を経験し、22年にも再びISSに長期滞在する予定の若田光一宇宙飛行士はどう見ているのか。宇宙ビジネスの展望を聞いた。(聞き手:内田 泰、中道 理)

(写真:JAXA/NASA)
(写真:JAXA/NASA)
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21年9月には米SpaceXが民間人4人だけによる宇宙旅行のミッション「Inspiration4」を成功させるなど、今年に入って民間宇宙旅行の成功が相次いでいます。若田さんはこの状況をどのように見ておられますか。

 21年はまさに、民間宇宙旅行の幕開けの年といえるでしょう。宇宙飛行士の一人として、当然、この動きを歓迎します。こうして民間宇宙旅行が拡大していけば、JAXAが目指している地球低軌道を経済活動の場にしていくことを推進する起爆剤になります。それによって競争原理が働き、宇宙への輸送コストの低下など経済活動が発展するための条件が整っていくでしょう。宇宙の利用は多くの人にとってより身近になっていき、究極的には有人宇宙探査の効率的な推進にもつながっていくとみています。

Inspiration4に参加した民間人は、宇宙旅行に際して約5カ月にわたる訓練を受けたそうです。将来、宇宙旅行が当たり前になれば、特別な訓練なしでも宇宙に行けるようになるのでしょうか。

 そこは、宇宙ミッションのプログラム内容やシステムの成熟度によると思います。例えば、スペースシャトルはシステムやミッション内容が複雑で、長期間にわたって専門的な訓練を行って運用能力を習得した人でないとミッションを安全かつ効率的に成功させることができない部分がありました。

 しかし、今回のInspiration4で使われた宇宙船「Crew Dragon」は従来の宇宙船に比べ、自動制御による飛行の範囲が拡大しているので、地上の自動運転車に例える事ができます。米Blue Originの宇宙船「New Shepard」も全自動で、搭乗者が操縦に関与することはありません。もちろん、宇宙船の各システムが正常に作動しないときでも安全に飛行するための検証は必要ですが、地球低軌道への往還用宇宙機は自律航行によって安全に宇宙飛行ができる方向に向かっていると思います。

 一方で、月探査などまだ確立されていないミッションについては、専門の訓練を受けた宇宙飛行士がシステム運用で主体的な役割を担い、人類の活動領域を広げていく必要があります。宇宙機運用の自動化・自律化がその後に続く事になります。