米中貿易摩擦や新型コロナウイルス禍など、これまでのサプライチェーンの常識が通用しない事態が相次いで生じている。調達・購買業務コンサルタントの坂口孝則氏がサプライチェーンの“新常識”を解説する。
以前の連載「米中新冷戦時代のサプライチェーン」
未来調達研究所 取締役

米中貿易摩擦や新型コロナウイルス禍など、これまでのサプライチェーンの常識が通用しない事態が相次いで生じている。調達・購買業務コンサルタントの坂口孝則氏がサプライチェーンの“新常識”を解説する。
以前の連載「米中新冷戦時代のサプライチェーン」
アパレル企業のシンガポールSHEIN(シーイン)は、若い世代を中心に高い知名度を持つ。アパレル企業というよりも、アパレルを売っているテック企業という形容がふさわしい。米国株式市場への上場を計画しているが、サプライチェーンに関するある疑いがかけられている。
先日、電気自動車(EV)大手の米Tesla(テスラ)が初めてScope3カテゴリー1の温暖化ガス(GHG)排出量を発表した。Scope3のカテゴリー1とは、自社が購入した製品の生産過程における排出量を指す。Scope1やScope2がかすんで見えるほど圧倒的に大きい。
「こんなのが漏れてくるの?」 20代のころ、電機メーカーから自動車メーカーに転職した筆者は驚いた。他社が調達方針説明会を開催すると、その資料がほどなく流れてくる。ということは、もちろん自社の資料も同業他社に流れている、と思うのが当然だ。
「ところで、お宅って下請法(下請代金支払遅延等防止法)の対応をどうしています?」。こんな会話が、その日の天気の話題並みに常套句となった。2022年末に起きた“事件”のためだ。
この1カ月間、隙間時間や休憩時間の話題は「ChatGPT」。サプライチェーン関係者には好奇心を持つ人が多いためか、実際に使ってみたり、有料プランに入ったりしているケースも多い。
このところ、もっぱら日本企業にヒアリングし、サプライチェーンの問題点を洗い出すとともに、調達入手改善の施策を模索している。筆者が興味を持っているのは、そもそも[1]なぜ納期が遅れてしまうのか、そして[2]なぜ遅れてしまうような部材を注文しているのか、の2点だ。
部材の調達を自社でコントロールしたければ、最も確実な方法は自分たちで生産することだ。これは理想論で、テスラも全ての部材を内製しているわけではなく、あくまでキーとなる部材だ。しかし、内製しないとなればどのような選択肢があるか。それは取引先との長期契約だ。
昨今の資材不足は改善の途上にあるものの、おそらく品目によってまだらな状況にあるとみられる。そのような中にあって、納期確保が難しくなりそうな品目が2つある。医薬品関連商品と食品だ。
「ほぼ全ての有名な自動車は新疆ウイグル自治区の強制労働と直接・間接的に関わっている」とする報告書の影響が広がっている。米国上院議会は主要な自動車メーカー8社に対して質問状を送付した。
2023年が始まった。サプライチェーンの領域ではウクライナ危機の先行きが不透明で、エネルギーの動向がどうなるか分からない。日銀黒田総裁の退任を4月に控え、外国為替レートの動きも不透明だ。さらに台湾有事の可能性もくすぶる。半導体不足は緩和している感があるものの、世界的な不景気突入への懸念もある。
1編の報告書が業界に激震をもたらしている。タイトルは「新疆ウイグル自治区における自動車産業と強制労働」。同報告書は結論で「ほぼ全ての有名な自動車は中国・新疆ウイグル自治区の強制労働と直接間接的に関わっている」とした。
一倉定(いちくらさだむ)氏。もともとは原価計算から業界に入った人で、やがて社長に対するコンサルタントとして日本で最も高名になった。一倉さんの名言は無数にあり、筆者の印象にもっとも残っている名言は「戦略とは値上げのことである」。ときとして名言は、たった少しの単語で全てをえぐりとる。
2012年度あたりから、国内法人の経常利益率は伸びているものの、海外現地法人のそれは微減あるいは横ばい。昨今は地政学リスク、あるいは一部海外地域の芳しいとはいえない人権順守状況などを踏まえて、単純な海外志向が再考されている。
時は2017年のサウジアラビア。同国は「脱原油」の将来を見据え、投資家から出資を募るための大規模なカンファレンスを開催していた。これからは新たなテクノロジー産業を育成し、原油一本足打法の状態から脱するのだ、という意図がありありと見えた。
このところ企業からわれわれへ脱中国の問い合わせが頻繁だ。台湾有事に備えて、中国以外の調達先を備えたいという意向だ。しかし現実的には難しい。
政府は2022年9月13日、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定した。当ガイドラインは内容が重厚で多岐にわたるため、重要箇所を抽出しながら解説したい。
また1つ、サプライチェーンを揺るがす大きな動きがあった。2022年8月、米国でインフレ削減法が成立した。電気自動車(EV)を購入する際に最大で7500米ドル(1ドル=140円として約100万円)の税額控除を受けられる。主要な自動車メーカーが参加する協会は歓迎しつつも、懸念を表明した。
欧州は、これまで否定的な立場を取っていた原子力発電やLNG(液化天然ガス)などにも肯定的な評価を与えるようになり、日本もカーボンニュートラルの旗印を下ろそうとはしない。企業の現場は、疑問を感じながらも脱炭素の取り組みを進めている。今回は脱炭素の取り組みの虚実を現場から見ていく。
先日、某社のコンプライアンス宣言を見せてもらう機会があった。コンプライアンスをサプライヤーにも求める動きが広がっている。特に労働面で、超過時間分の賃金未払いを防いだり、人権じゅうりんを防いだりするのが目的だ。
「取引先が解決しようとしないならば、我々が解決するまでだ」。何という力強い言葉だろうか。米Tesla(テスラ)CEO(最高執行責任者)のイーロン・マスク(Elon Musk)氏の言葉だ。そして、この言葉はマスク氏の力強さ、さらにテスラのサプライチェーンにおける優位性をも示している。