2000年代の初め、旅行先のマレーシアで客引きに呼び止められた。何でも、未来の乗り物があるから金を払って乗れ、という。そこには数台の「セグウェイ」が置いてあった。簡単なレクチャーを受けて出発する。
乗ったのは10分ぐらいだが、私はその軽やかな動きに魅了された。何度も並んで乗った。私とLINEのやり取りをしたことがある人は、アイコンがセグウェイに乗った私の写真ということを知っているだろう。
そのセグウェイが、20年7月に生産中止となる。私にとっては、「筑波大学のキャンパスツアーでセグウェイが導入された」と聞いて以来、久々のセグウェイに関するニュースがこれだった。新型コロナウイルス禍以前にアジアの空港やショッピングモールに行くと、警備などにセグウェイを採用している事例を見たが、法規制などもあって一般には普及しなかった。
セグウェイ生産中止の報を受けて多くの人が知ったのではないかと思うが、セグウェイを手掛ける米Segway(セグウェイ)は、15年にライバルの中国ナインボット(九号机器人)に買収されていた。セグウェイの売り上げは、ナインボットにほとんど貢献していなかったという。
セグウェイが発表されたのは01年で、私はとても印象に残っている。なぜならば、当時はITバブル崩壊後で、世の中が次の投資対象に飢えていた。そこにセグウェイの登場だ。自動車に代わるモビリティー。自動車というよりはバイクに近い爽快感があった。何より、排ガスや交通渋滞といった社会問題を解消できるかもしれない。新たな産業になりそうな予感があった。
しかし、そのセグウェイの夢は約20年後についえた。
ラストワンマイルに着目していたSegway
セグウェイを巡っては、03年にジョージ・W・ブッシュ米大統領(当時)が別荘で乗っていたときに転落し、たまたま写真が撮られており、不名誉な報道がなされた。15年には、報道カメラマンの乗るセグウェイが陸上のウサイン・ボルト選手に衝突したこともあった。ボルト選手はさすがで深刻な事態には至らなかったが、Segwayのかつてのオーナーが走行中に崖から川に転落して死亡した事件も起きた。
結局、セグウェイは私道や商業施設での利用が広がらなかった。販売が伸びず、それによって残念ながら生産中止を余儀なくされた。
もっとも、私は、Segwayが異なる領域に関心を移していると考えていた。例えば、同社は19年の「CES 2019」において自動配送ロボット「Loomo Delivery」を発表していた。これは、収納家具に車輪を付けたような外観をしている。オフィスやショッピングモールなどでの配送業務や、個人宅配の「ラストワンマイル」を担うロボットとして考案されたものだ。実際、同社は今後この領域に力を注ぐと宣言していた。
この取り組みは、個人が自由自在に動き回れることをコンセプトとしたセグウェイから遠く離れたものではない。むしろ、思想としては近い。これから都市人口がどんどん増えていく中で、ラストワンマイルの解決策はますますニーズが高まる。都市内を手軽に移動できる「ミニマムモビリティー」が必要なのは確かだ。動くものが人なのか荷物なのかという違いはあれども、移動こそが価値を生むのは間違いない。セグウェイ自体は生産中止になったものの、移動に注目したのは先見の明といってよい。