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 「日本人はNATOですね」と聞かされた。私はそのとき、イスラエルにいた。どうも、北大西洋条約機構のことではなく、「No Action, Talk Only」の略だという。何も行動せず、話だけして終わり。物事は何も進展しない。

 数年前にも中国の深センで同様の皮肉を聞かされたのを思い出した。日本人は深センの企業から見積書を取る。「いくらを希望ですか」と聞いてもよく分からない。ある日いきなり、「工場監査をしたい」と言い出す。工場には7人の団体でやってきて、2日間にわたりあれやこれやと指摘を繰り返す。その後に「どうなった」と連絡しても、「検討中」としか返ってこない。そのうち、日本企業との取引は霧消するという話だ。

 話を戻す。私はイスラエルのテルアビブにいた。そこはビジネスタワーで、市内の絶景を見渡せる61階の会議室だ。有望なイスラエルのベンチャー企業を探すために、ベンチャーキャピタリストと面談していた。

 米ナスダックには多くのイスラエル企業が上場している。イスラエルは、人口が900万人足らずで、外国と商売をしなければ文字通りメシが食えない。必然的にビジネスパーソンは外を見るし、ベンチャースピリットを燃やすしかない。しかも、外からロケットが飛んでくるから、国防をせっせと構築する必要がある。人々の日常に死と隣り合わせの危機感が充満しているわけではないが、小国の躍進の理由が分かった気がした。

 私が面談したベンチャーキャピタリストは、「日本人のお金を受け取りたくない、というイスラエルのベンチャー企業は多いですよ」と教えてくれた。それは、意思決定の遅さによるものだった。加えて、事業自体への理解に関わる問題もあるという。

 イスラエルにベンチャー企業が多く存在する背景には、軍事技術を民間に転用し、それで外貨を稼ぐという構造がある。だからこそ、イスラエルのベンチャー企業は、人工知能(AI)やセンシング、サイバーセキュリティーといった技術を強みとするところが多い。そのベンチャーキャピタリストいわく、「スタートアップのエコシステムには生まれた理由があり、その必然性がないところでエコシステムを生み出そうとしても難しい」。つまり、エコシステムが生まれた必然性への理解に基づいて事業も把握しなければならないのだ。

 なるほど、深センが「メイカーズ」と呼ばれるものづくり系スタートアップの一大拠点になったのにも背景があった。地方から人が集まるとともに、そこに政府が外資企業を誘致した。経済特区となり、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が工場を設立するなど組み立て産業が勃興していった。

 私は、イスラエルで聞いた「スタートアップのエコシステムが生まれた必然性」という言葉が印象的だった。世界を見渡したときに、自分たちの事業分野のエコシステムが生じているところはどこか。自分たちが向かうべき場所はどこか。そこにはお金も人材も情報も集まってくる。

技術や資金調達で逆転目指す

 さて、日本でもスタートアップのエコシステムを構築しようという動きがある。内閣府の推進している「スタートアップ・エコシステム拠点都市」がそれだ。報道では「日本版シリコンバレー」と呼ばれることが多い。資金調達が容易にでき、公共調達における入札優遇措置なども盛り込まれる。2020年7月には、この取り組みの「グローバル拠点都市」として東京圏など4都市圏、「推進拠点都市」として札幌など4都市が選定された。

 エコシステム創成の目的は、新事業を生み出したり、人材を集めたりすることである。有名になれば、世界中からお金が集まる。「GAFA」を例に出すまでもなく、日本は技術や資金調達の面で世界から出遅れた感があった。日本版シリコンバレーの取り組みは、それを逆転しようというものだ。

 スタートアップ・エコシステム拠点都市の取り組みでは、以下の7つの戦略が挙げられている。内閣府の他に経済産業省、文部科学省の連名によるもので、本気度を感じる。

戦略1:世界と伍(ご)するスタートアップ・エコシステム拠点都市の形成
戦略2:大学を中心としたエコシステム強化
戦略3:世界と伍するアクセラレーションプログラムの提供
戦略4:技術開発型スタートアップの資金調達等促進(Gap Fund)
戦略5:政府、自治体がスタートアップの顧客となってチャレンジを推進
戦略6:エコシステムの「つながり」形成の強化、機運の醸成
戦略7:研究開発人材の流動化促進

(出所:内閣府、経済産業省、文部科学省「Beyond Limits. Unlock Our Potential. ~世界に伍するスタートアップ・エコシステム拠点形成戦略~」)

 私は、戦略5において「加点(評価項目設定)の検討」とまで踏み込んで書いているのに注目した。私は、例えば「ふるさと納税」制度は、地元のベンチャー企業の商品を提供するのが良いと考えている。そうすれば全国の顧客との窓口を果たすことができるからだ。もちろん、公共調達は公平性を基本とするので、スタートアップをいかに公共調達で優遇するのか、具体案を見なければ分からない。しかし、この流れは歓迎したいと思う。