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 1986年、悲しい事件があった。スペースシャトルのチャレンジャー号が発射直後に爆発したのだ。株式市場は敏感に反応した。チャレンジャー号に携わった企業の株価は一斉に下がったり、反発したりした。しかし、なぜか1社の株価だけは下がり続けた。

 それはOリングを生産している企業で、同社の株価だけ下落することは不思議に思えた。ただし、もっと不思議だったのは、その企業のOリングが事故原因だったと後に判明したことである。天才物理学者のリチャード・ファインマンが相当な時間をかけて解析した結果として分かったのだが、なぜか市場はずっと前に答えを知っていたのだ。

(出所:PIXTA)
(出所:PIXTA)

 社会の潜在的無意識が真実を明らかにした。説明するまでもなく、株価はその企業の将来にわたる価値を反映する。

 市場は、爆発事故とOリングの因果を明らかにしない。事実は、それを当てた、ということだけだ。

世界中に感染拡大も株価は上昇

 新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた2020年3月、日経平均株価をはじめとする一連の株価指標は大幅に下落した。同月下旬になっても、新型コロナウイルスが終息する気配はなく、人々は恐れおののいた。そこで株式を手放したり、ショート(信用売り)に賭けたりする人たちがたくさんいた。

 興味深かったのは、4月から株価が上昇に転じたことだ。人間の心理として、新型コロナウイルスの恐怖が終わったようには感じなかったし、むしろ世界中に流行するニュースが流れ始めていたにもかかわらず、である。

 そして、現在に至るまで新型コロナウイルスは人々の関心であり続けた。治療薬の開発が急ピッチで進んでいるとはいえ、決定打になるかどうかは分からない。さらに、大幅な赤字を発表する企業が相次いだ。今期の業績については予想が付かずに非公表としている企業も多い。

 それなのに、株価は4月から上昇し、6月の水準から横ばいが続いている。市場は、この新型コロナウイルス騒ぎが、さほど長続きしないと考えているのだろうか。

厳しい自動車や鉄鋼

 サプライチェーンを研究する機関として、米Institute for Supply Management(ISM)が有名だ。ISMは米国購買マネージャー指数(PMI)を発表しており、製造業景気指数と呼ばれる。文字通り企業の購買管理職にアンケート調査を実施するものだ。一般に50を超えると成長局面にあると判断できる。

 直近のPMIは、20年5月が43.1、6月が52.6、7月が54.2と回復傾向にある。6月の時点では、米国における新型コロナウイルスの拡大に伴って7月に落ち込む可能性を指摘されていたにもかかわらず、企業間の受注は好調が続き、8月も成長が続くのではないかと見ている。

 もっとも、新型コロナウイルスで製造業各社が無傷だったわけではない。各社は大幅なリストラクチャリングや雇用条件の見直しに取り組んできた。さらに、人的な接触を防ぐために、ロボットへの投資や、距離を保つための労働環境整備などに投資している。

 雇用状況はまだ厳しい状況が続いている。それでも面白いことに、新型コロナウイルスが米国で異常なほどの猛威を振るっているにもかかわらず、製造業のPMIから見る限りは緩やかな回復を見せている。

 ただし、ここで注意しなければならない。全体では回復傾向とはいえ、業界間で回復の程度に差が見られるのだ。例外はあるものの、肌感覚では半導体関連企業や情報機器関連企業は上昇基調にある。逆に、自動車関連企業、工作機械関連企業、鉄鋼関連企業、エネルギー関連企業は厳しい状況にある。

 そこで、私たちの周りで話題になっているのが、この回復が遅れた業界の取引先管理だ。全ての取引先を注視する必要があるのではなく、特定の産業に属する取引先を集中的に監視しておくべきだということである。

 回復の遅れた業界にいる取引先は、もしかすると倒産リスクがある。だから、代替取引先を選定しておかねばならない。しかし、それも新型コロナウイルスで難しい状況にある。