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 トヨタ自動車が新賃金制度を導入する。同社の労働組合も合意したので、新賃金制度の運用は2021年1月に始まる。この新賃金制度がややセンセーショナルに報じられたのは、定期昇給がゼロになる社員が出てくる可能性もあるからだ。

 トヨタ自動車労働組合の組合員は約7万人といわれている。組合員の給与は、「職能基準給」と「職能個人給」の組み合わせで規定されている。前者は職位に応じて決まり、後者は人事評価の結果で変動する。新賃金制度では、人事評価の結果で変動する「職能給」に統合する。そのため、人事評価の給与に及ぼす影響度が高くなる。理屈の上では、定期昇給がゼロになることもあり得るという。

(出所:tiquitaca/PIXTA)
(出所:tiquitaca/PIXTA)

 評価の高い人が、給与をたくさんもらうのは当然だ。このように単純に考えれば、今回の制度変更は必然に思える。トヨタ自動車という日本を代表する企業が、個人の実力差をさらに色濃く給与に反映する方向性にかじを切った事実が、多くの人に強烈な印象を与えた。同社としては社員が熱心に働くように奮起を促す狙いがあるのだろう。

 私は「センセーショナルに報じられた」と書いた。報道では「定期昇給ゼロもあり得る」という点が強調されていたが、それはあくまで可能性であり、運用上は「ほとんどない」ものと想定されている。新賃金制度では上位4割の社員に重点的に配分するので、旧制度よりも差は大きくなるはずだ。とはいえ、評価は中央に寄るのが常だから、劇的な差にはならないと予想する。

「メンバーシップ型」から「ジョブ型」へ

 最近、雇用形態について「メンバーシップ型」から「ジョブ型」への移行が話題になっている。前者は、取りあえず会社に入ってもらい、仲間になって、仕事を覚えてもらうというもの。文学部出身者でもシステムエンジニアになれるのは、特定分野の技術や知識が必要なのではなく、会社になじんでもらうことが何よりも重要だからである。

 一方、後者は職務内容を明確に記述した「ジョブディスクリプション」を提示し、目標達成を社員に課すものだ。各人は専門職として仕事を遂行し、目標を達成すれば評価が上がるし、そうでなければ評価が下がる。

 従って、評価に応じた給与の増減を徹底するには、メンバーシップ型からジョブ型への移行が必須となる。前者では評価の基準が曖昧になり、評価が中央に固まったり、上司の好みが強く反映されたりするからだ。

 多くの企業では、期初に各人の目標を設定する。さらに、期初に上司が部下に期待している内容を伝える場や、評価後に上司が部下にフィードバックする場を設けていることもある。

 しかし、往々にして目標が定性的だったり、実績が外部環境に左右されがちだったりする。例えば、新型コロナウイルス禍では、営業担当者が売り上げ目標を達成できなかったとしても、その人の努力不足とは必ずしもいえない。市場全体が縮小していたからだ。逆に、調達担当者がコスト削減目標を達成したとしても、原油などの原材料価格が下落していた局面では、その人が実は何も努力しておらず、単に調達コストが下がっただけという可能性も考えられる。

 そのようなこともあり、実績と評価の関係については「よく分からない」と率直な感想を持つ人は多い。