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「ふーん」「へー」

 2020年11月4日、私は某上場企業の会議室にいた。いつものようにサプライチェーンのコンサルティングをしている最中で、メンバーの方々と議論を交わしていた。すると、各人のスマートフォンに米大統領選の最新情報が入ってくる。

「バイデンが優位らしいですよ」
「いや、トランプがフロリダで勝った」

 会議の合間に、そんな情報が錯綜(さくそう)した。印象的だったのは、企業人たちの表情と対応である。全く動揺を感じられなかった。トランプ氏が勝っても、バイデン氏が勝っても、日米同盟は強固であろうし、対中政策が緩むとも思えない。「ふーん」「へー」という言葉だけで、話題は流れていった。

(出所:Kostiantyn Postumitenko/PIXTA)
(出所:Kostiantyn Postumitenko/PIXTA)

「まあ、この時点での敗者は世論調査ってことでしょう。4年後は誰も世論調査なんて信じなくなりますね」

 本稿執筆時点ではまだ米大統領選の結果は出ていない。バイデン氏が優位と報じられているものの、決着については不明な点が多い。ただし、ここではバイデン新大統領が誕生したと仮定して、サプライチェーンへの影響などを説明する。

強い国内回帰志向

 今回の米大統領選を巡っては、1回目の討論会における罵り合いが大々的に報じられた。それ以外にも、互いのネガティブキャンペーンや陰謀論などが拡散した。これはメディアの性質上、仕方がないものの、両者の政策はあまり比較されず、パーソナリティーばかりが注目されていた。

 トランプ氏の政策といえば「Make America Great Again」「Buy America」などが有名だ。では、バイデン氏はどうか。実は同氏の主張をつぶさに見ていくと、トランプ氏以上の内向き志向が伝わってくる。

(1)サプライチェーン国内回帰志向
 バイデン氏はサプライチェーンの国内回帰を強く主張している。もちろん、新型コロナウイルス禍において医薬品や医療機器の国内回帰は理解できる。コストよりも安定供給を重視するもので、リスクヘッジの観点から日本も同様の政策を進めている。

 ところが、バイデン氏はより広い分野の国内回帰を志向している。エネルギーや半導体、電子機器、通信インフラ、原材料などだ。これらの主要部分を海外に移管してしまえば、米国は脆弱になると警鐘を鳴らしている。

 もっとも、現状では米国単独で生産できていないし、将来もできない。部品を含む全てを米国に抱え込むのは現実的ではない。そこで同盟国とのサプライチェーンにおける連携を説いている。

 なお、重要インフラについては安全保障の観点で、中国やロシアからの輸入を制限すると明言している。

(2)行政主導の国内回帰
 さらに、サプライチェーンの国内回帰を企業に要請するのではなく、行政自ら主導するという。就任したら100日間をかけて、米国が抱えるサプライチェーンのリスクを徹底的に検証し、その後も定期的にレビューをする。

 脆弱性を発見すれば、それを米国生産に切り替える。例えば、新型コロナウイルス感染拡大で品切れが続いたマスクを例に挙げる。根拠は、国防生産法で、これによって大量の米国人の雇用を生み、失業率の改善に寄与するという。

 政府調達においては、「Made in America」だけでは不十分であり、その構成部品がどこから来たものかについて監視する。企業のサプライチェーンも評価対象だという。米国人労働者の関与率が低ければ雇用は改善しないので、バイデン氏からすると当然の施策かもしれない。