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 このところ私の本業であるサプライチェーンのコンサルティングで企業を訪問していると、企業や個人によって新型コロナウイルス感染症の捉え方に差異があると感じる。新型コロナウイルス感染症を気にする人たちと、気にしない人たちの間には、高い壁が存在する。

 ここ最近の感染者の増加とは裏腹に、楽観論を採用する人が多くなったように思える。その理由は、長く続いた自粛の反動もあるだろうが、やはり大きいのはワクチンへの希望だ。中国やロシアがワクチンの接種に向けて動き始め、さらに米国のPfizer(ファイザー)やModerna(モデルナ)のワクチンが効力を持ちそうだと報道された影響は大きい。経済全体の明るいニュースとしては、2020年でも随一だろう。

(出所:moovstock/PIXTA)
(出所:moovstock/PIXTA)

 ところで、サプライチェーンの従事者は、ワクチンを全世界に向けてどう運ぶかに興味があるに違いない。何しろ、物流の対象が膨大な数量なのだ。あくまで計画だが、例えばファイザーの生産量は20年に5000万回分、21年には13億回分に達するという。

 同社のワクチンを巡っては、大手物流企業の米United Parcel Service(ユナイテッド・パーセル・サービス、UPS)、米FedEx(フェデックス)、ドイツDHL International(DHLインターナショナル、以下DHL)が物流計画を立案している。計画では、米国内には2日以内、世界各地には3日以内に運ばれるという。世界の隅々に行き渡るのはまだ先としても、ワクチンの配布によって何よりも安堵感が広がっていくだろう。

温度管理に課題

 ところで実務的に難しいとされているのはワクチンの温度管理だ。これについて、DHLは長大なホワイトペーパーを公開している。

DHLのホワイトペーパー「DELIVERING PANDEMIC RESILIENCE

 ファイザーのワクチンは、マイナス70度前後の温度で管理すれば半年ぐらい保持できる。一方、2~8度だと5日間ぐらいだという。いずれの温度帯も、サプライチェーンにおける標準的な設定と思われる。ホワイトペーパーには中間のマイナス20度という条件も記載されていたが、その場合もあまり長くは保持できないようだ。

 DHLは、ホワイトペーパーでより詳細な分析内容も明らかにしている。特に気になるのは、新興国における配送だ。「THE GEOGRAPHIC VIEW ON VACCINE DISTRIBUTION(ワクチンの流通に関する地理的見解)」という項では、アフリカや南米などでは低温環境を維持するサプライチェーンの構築が難しいことから特別な施策が不可欠と論じている。

 外気温が高い地域では、いわゆる「ラスト・ワン・マイル」の配送で注意が必要になりそうだ。具体的には、配送のための特殊な箱を用意し、ドライアイスで温度を下げる。しかも、定期的にドライアイスを補充しなければならない。だが、これらをどこまで用意できるかは未知数である。

 温度管理の状況次第では、ワクチンが使えなくなる恐れもあるという。そこで物流企業各社は、ワクチンのサプライチェーンに巨額を投資している。例えば、UPSは新型コロナウイルスに打ち勝つことを使命に掲げ、巨大なワクチン保存庫を建設している。

衝撃を与えたモデルナのワクチン

 これに対し、モデルナのワクチンはサプライチェーン関係者に驚きをもって迎えられた。