全2839文字

 私は、新卒入社した電機メーカーの研修でABC分析を学んだ。ABC分析は、重み付け分析などとも呼ばれる。サプライチェーン部門に配属された私にとって、ABC分析によるコスト管理は重要な仕事だった。

 ABC分析は複雑怪奇な手法ではない。支出額の大きい順に項目を並べて、コスト管理やコスト削減の対象に優先順位を付けるというシンプルな手法だ。むやみやたらに対象を決めても徒労に終わる。それだったら、最も支出金額の大きい分野から手を付けたほうがよい。コスト管理も投資対効果が重要だ。日本の製造業従業者は、このように優先順位を付けて地道に改善していくというアプローチが骨の髄まで染み付いているのではないか。

カーボンニュートラルに懐疑的な日本の企業人

 「脱炭素」「カーボンニュートラル(炭素中立)」といった言葉がメディアをにぎわしている。だが、企業人と話していると、脱炭素やカーボンニュートラルについて懐疑的な声をよく聞く。

 「日本に不利なルールを押し付けられている」「もっと他に取り組むべき国があるのでは」。そう思うのは当然かもしれない。ABC分析の例にならえば、二酸化炭素(CO2)排出量が最も多い国は中国であり、全世界の約3割を占めている。以下、米国、インド、ロシア、そして日本と続く。

(出所:Blue flash/PIXTA)
(出所:Blue flash/PIXTA)

 中国は、2060年までにCO2排出量の実質ゼロを目指すと宣言した。再生可能エネルギーの利用も増やすという。ただし、現在は電力全体の約6割を石炭火力発電が占めており、これをどこまで削減できるかは不透明だ。仮に中国が石炭火力発電の割合を減らし、世界的に火力発電が縮小したとしても、それによって石油や原油の価格が下がったら、新興国を中心に再び火力発電が拡大するのではないかという懸念もある。

 日本のCO2排出量は、世界全体の3%程度である。私が話を聞いた企業人は、カーボンニュートラルを「環境意識の高い団体のお遊戯」ぐらいにしか思っていなかった。投資対効果についても、時間や手間ばかりがかかって売り上げや利益につながるとは思えないというのが本音だろう。

 先日、欧州の企業とテレビ会議で議論した時も、現地の人と日本から駐在している人で意見が大きく異なっていた。前者が本気で取り組んでいるのに対し、後者にそのような熱量は感じられなかった。

サプライチェーン全体で取り組め

 日本は、カーボンニュートラルの潮流にどう向き合えばよいのか。私の見解を述べると、「脱炭素の効果や実現性はさておき、投資テーマにカーボンニュートラルが組み込まれている以上、企業は取り組むべきだ」となる。環境を含むESG(環境、社会、企業統治)投資は世界で3000兆円に上るともいわれる。売り上げがほとんど立っていなくてもESG銘柄というだけで高い企業価値が付く時代だ。

* 編集部注:2018年時点で世界のESG投資残高は30兆6830億米ドル(約3313兆7640億円、1米ドル=108円換算)に達している。(参考文献:Global Sustainable Investment Alliance “Global Sustainable Investment Review(GSIR)2018”)

 少し前まで企業にひたすら利益を求めていた投資ファンドは、いきなりESGやカーボンニュートラルを優先すると言い出した。各国政府もカーボンニュートラル政策を相次いで打ち出している。及び腰だった日本政府も、50年のカーボンニュートラル実現を宣言した。

 日本のCO2排出量は、製造業などの産業部門と運輸部門だけで過半を占めている(間接排出量ベース)。ここをいかに抑えるかが重要だ。欧米は少数の巨大企業への集約が進んだのに対し、日本は「ケイレツ」に代表される多くのサプライヤーとの協業でものづくりをしてきた。CO2排出量の削減でもサプライヤーとの協業が欠かせない。だから、日本企業はサプライヤーの生産工程を含めたCO2排出量を調べ、サプライチェーン全体の削減目標値を設定している。