
取引先を“切る”とき
筆者はサプライチェーン、調達の分野で実務に携わってきた。現在では同領域のコンサルティングを生業(なりわい)としている。この仕事の中で、もっとも難しいのは取引先を切るときだ。一般的にはQCD(品質・コスト・納期)といった評価尺度が使われる。それらを総合的に評価し、特定の取引先と「残念ながら新商品・新サービスからはお付き合いできない」と結論が出る。
しかし、結論は出るのだが、取引先に説明をするのが困難だ。尺度に基づいて評価したといっても、定性的な感覚値は入り込む。相手は人間だし、何よりも生活がある。サプライチェーンでは、取引先依存度といって、「自社から取引先への年間発注額÷取引先の年間売上高」を計算する。前年の依存度が10%としたら、その取引先は10%の売り上げを失ってしまう。
数%だったらそれほど問題はない。だけれど、依存度が30%だったら、次年度は通期で赤字に陥るのがほぼ確実。取引先のトップがこちらの経営層のところに駆け込んでくる。「何とか仕事を維持してくれ」と懇願されたり、あるいは「あんなに世話してやったのに恩知らずめ」と怒鳴られたりする。
サプライチェーンの担当者は「なぜあの取引先を切るのか教えろ」とトップから指示を受け、資料作成や説明に時間を費やすことになる。相手の取引先が下請法対象の企業であれば、「継続的な取引が行われているとき、やむを得ない事情で取引を停止せざるを得ないときは、親事業者は相当の猶予期間をもって下請け事業者に通知すること」と定めた下請中小企業振興法に反する行為ではないかと叱責も受ける。
おそらく、まさに今もどこかで、心を痛める発注企業の担当者と、心穏やかでいられない受注側の取引先担当者との間で、重く会話が進行しているのだろう。