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CO2排出量算定の規定「GHGプロトコル」
CO2排出量算定の規定「GHGプロトコル」
「Corporate Value Chain(Scope 3)Accounting and Reporting Standard」と「Product Life Cycle Accounting and Reporting Standard」(出所:WRI・WBCSD)
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 菅義偉首相が日本は2050年にカーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)を実現させると宣言した。それに呼応するかのように、大手企業にも脱炭素に向けた発言が目立つようになった。トヨタ自動車は、全世界の工場で二酸化炭素(CO2)排出を実質ゼロにする目標年を、50年から35年に前倒しすると発表した。ホンダは50年にカーボンニュートラルを目指すとしているが、40年には新車から出るCO2をゼロにすると電気自動車(あるいは燃料電池車)の全面展開を発表した。

 これら各社の発表とともに、企業のサプライチェーン・調達部門から筆者へ脱炭素への問い合わせが増加している。脱炭素の動きは、自社だけにはとどまらない。取引先が出す温暖化ガスも削減のターゲットとなるからだ。

 世の中の潮流としては、自社と関係する全ての企業活動における温暖化ガスの削減を目指している。具体的には、サプライチェーン排出量 = Scope1+Scope2+Scope3 を把握せねばならない。

  • Scope1:事業者自らによる温暖化ガスの直接的な排出
  • Scope2:他社から供給される電気、熱・蒸気使用における排出
  • Scope3:事業者に関連する他社の排出

 企業のサプライチェーン・調達部門が気にしているのは、Scope3だ。このScope3で、いかに他企業に協力してもらうかが重要となる。現時点では、サプライチェーンに点在する取引先に、具体的な削減値や目標、手段まで通知している企業はさほど多くない。まず現在の排出量を試算している段階にある。

 この、温暖化ガス削減どころか、カーボンニュートラルまでを目指す方向性は変わりそうにない。ただ、あくまでも筆者の現場での実感だが、50年といわれても、中小企業の現役経営陣はその頃には引退しているためか、切迫感を抱いているようには思えない。大手企業が本気になった後に、中小企業は徐々に本気になる流れだろう。

実務的な問題点[1]新規品の場合

 ただし、理念とは別に、この温暖化ガス削減の効果測定については実務的な困難さがあることを指摘しておきたい。カーボンニュートラルに行き着くまでは、地道な排出量の削減が期待される。では、このような場合はどうだろうか。

  • 自社で新商品を企画した
  • 部材の取引先や、外注先として、温暖化ガス排出削減に熱心な取引先を選定した
  • その新商品はヒットした
  • 他の既存商品はそのまま売れている

 この場合、企業としては新商品を追加している。だから売上高は伸びる。成長を目指す企業としては当然のことだ。ただ、そうなると、新商品にまつわる温暖化ガスがゼロではない以上、企業サプライチェーン全体の温暖化ガスの絶対量としては増えてしまう。すると、努力してくれている取引先や外注先を選定した行為を正しく評価できなくなる。

 このようなとき、原則では、その新商品と似た商品の業界平均と比較するとされる。そして業界平均と比べて温暖化ガスの排出量を減らしていたら、それは削減量として主張できる。つまり業界平均の商品が販売されていたときよりも、優れた商品を販売したと貢献をアピールできる。

 しかし、類似品がない場合は? また複数機能を有する商品であれば、どのカテゴリーと比較すればよいだろうか。そもそも業界平均とは何を指すのか(日本? 世界? あるいはアジア?)。その業界平均はどのように調べるべきなのか。

 カーボンニュートラルに至るまでは、かなりの恣意性が生じると思われる。恣意性と言って不適切ならば、大胆な仮説や前提が少なくとも必要になるだろう。