このところサプライチェーン・調達業務関係者と話すと、脱炭素(カーボンニュートラル)の話題になる。多くの企業が、脱炭素の大目標を掲げたものの、具体的な進め方に苦慮している様子だ。
先日、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は最新の報告書を公開し、今まで以上の危機感を訴えた。地球温暖化に対しての人間の活動の関与には諸説あるが、最新版では「人間活動が温暖化の原因なのは明らかである」と説いている。これまでの人間活動の影響により、2040・2050年代ころには+1.5℃の気温上昇は避けられない運命かもしれない。しかし、それが+2.0℃になってしまうかもしれず、まさに現時点からのアクションが必要と示す内容になっている。
* 環境省Webサイト「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書第I作業部会報告書(自然科学的根拠)の公表について」このIPCCは単なる専門家の集団ではなく、各国の政策決定者とともに活動して方針を共有している。各国の政策決定者は、その国の企業に影響力を持つ。これまで以上に企業に脱炭素の取り組みを促すプレッシャーがかかるだろう。
50年に脱炭素を実現するなら、今はもう21年だから、残りは29年間しかない。そこで各社ともにサプライチェーン全体(=サプライヤー)に対してもCO2などの温暖化ガスの排出量算定と、そこから50年に至る削減のロードマップ策定を求めている。
さらに、脱炭素を目指すと言っても活動がすぐ成果に直結するわけではない。中長期的な取り組みになるから、担当者から見れば施策を重ねても、結果が出るのは次の担当者以降になる。だからインセンティブを感じにくい。
企業全体としても、脱炭素の取り組みが市場から評価されるとはいえ、事業の上で具体的にどんな恩恵があるかはなかなか分かりにくいのも現状だ。脱炭素の成果を上げれば株価が上がり、取引先から選定されるのに有利なのは大まかには分かっている。ただ、高所から舵(かじ)を取るべき経営者が大号令をかけない場合、なかなか現場は動かない。
例えば、本格的に導入される可能性が高まる炭素税。これは温暖化ガスの排出量に応じて税が課せられる制度だ。欧州は実施の方向に動いており、日本でも本格的に議論が始まっている。しかし、その議論がサプライチェーンの現場にまで届いているかというと、そんなことはない。
冒頭のように「わかっちゃいるけど、まだ本格開始はしていない」状況だ。
「社内炭素税」の導入
企業として、半ば強制的に現場を脱炭素実現へと動かすためにはどうすればいいだろうか。問題はインセンティブを持たせにくい点にあった。
そこで、いくつかの企業では「社内炭素税」を導入している。税といっても、もちろん企業は行政ではないから、本当の税金ではない。管理会計上の疑似税金だ。仕組みを描くと、図のようになる。
複数の事業部を持つ企業の場合、事業部ごとに温暖化ガスの排出量を計算させる。その上で、CO2などを1t(トン)排出するごとに○○円を本社へ納める、という方法だ。こうすると、各事業部にとって脱炭素はお題目ではなく、実利的な課題となる。
本社も単に吸い上げるだけではない。その疑似税金を活用して、将来の脱炭素・省エネ技術へ投資を加速する。さらに、その投資によって得た技術や手法を各事業部にフィードバックする仕組みだ。これにより、
- 各事業部の温暖化ガス排出量を横並びにできる
- 削減の優劣も明確にでき、社内で競争環境を構築できる
- 削減が遅々として進まない事業部は、同時に利益が減少してしまうため、改善のインセンティブが生じる
といった効果を見込める。もっとも、1.において、まったく売り上げ規模の違う事業部間の比較には意味がない。そこで、売上単位当たりの排出量を比較する、あるいは利益単位当たりの排出量を見るなどの方法が考えられるだろう。
そして多くの場合、事業部のサプライチェーン全体でCO2などの排出量を計算すると、自社以外の分が大きくなる。つまりサプライヤーが排出する量をいかに低減するかが重要になってくる。
本連載の以前の回でも書いた通り、サプライチェーン排出量は、大きくScope1、Scope2、Scope3から成る。自社だけでなくサプライチェーンも含め、事業活動全体について温暖化ガスの発生量を見る。
- Scope1:事業者自らによる温暖化ガスの直接的な排出
- Scope2:他社から供給される電気、熱・蒸気使用における排出
- Scope3:事業者に関連する他社の排出
このうちScope3がサプライヤーに関するところであり、企業のサプライチェーンのうちの大半を占める。