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(出所:123RF)
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 現代に大きなヒントになる話だと思うので、ぜひお読みいただきたい。

 1848年に米国カリフォルニア州で始まったゴールドラッシュ。これはカリフォルニアにある山で金が見つかったことから、全米中の人々が金持ちになることを夢見て殺到した事件だ。

 しかし、実際にはほとんどの人々が夢破れたといわれる。さまざまな争いがあったようだが、もっと大きな問題は日用品などの価格が急騰し、とてもペイしなかったからといわれる。

 一方で成功した人もいた。彼らは、金を掘りに来たわけではなかった。むしろ、金を掘りに来た人たちへのビジネスを展開した。最も有名なのは、ドイツからの移民だったリーバイ・ストラウス(Levi Strauss)氏だろうか。彼は、殺到した人々に丈夫なズボンを販売した。彼が創業者ファミリーの1人となり、その後世界的なアパレルメーカーになった米Levi Strauss(通称Levi's)は誰もが知っている。

 そして卸売業のサミュエル・ブラナン(Samuel Brannan)氏がいた。彼は、物資をカリフォルニアへ大量に輸送して売りさばいた。ツルハシや、たらい、斧(おの)などだ。物資が貴重だったので、彼は価格を上げることができた。いわゆる独占市場を作り上げ、多くの富を築いた。

 ここから得られる教訓はなんだろうか。「金を掘りに行くな。ズボンを売れ」「金を掘りに行くな。ツルハシを売れ」であろうか。

 人々がどこかに殺到するとき、一緒になって殺到するのではなく、そのサポートをする側に回ること。そして自身が一助になること。これが定石だと教えてくれるような気がするのだ。

サプライチェーンへのDXの検討

 筆者の本業はサプライチェーン分野のコンサルティングである。いまだに緊急事態宣言が出ている状況だが、1年前と比較すると、短時間に限ってマスクをしながらクライアントに会う機会が増えてきた。

 すると、「他社のDX(デジタル・トランスフォーメーション)の状況はどうですか」と聞かれたり「サプライチェーンのDXを支援してもらえませんか」と持ちかけられたりする機会も増えた。テレビ会議ではなく、対面のときにDXの相談を受けるのは、大変に興味深い事象だ。これは皮肉ではない。会議の前後の余白に、想定以外の会話をするのは、リアルな会合の醍醐味なのかもしれない。

 さて、話を冒頭のゴールドラッシュの話になぞらえて続けると、もしかすると現状は、DXを推進させようとするコンサルティング会社や、IT企業だけがもうかっているのかもしれない。こう言うと本当に皮肉になるだろうか。ただ、コンサルティング会社によっては、DXといいながら、クライアントに提案している内容が単に、これまでのICT化の延長にしか見えないものがある。

 これには、クライアント側にも問題があるように筆者には感じられる。

 数年前の人工知能(AI)ブームの時、筆者の会社ではいち早く「サプライチェーンのAI活用」をうたって活動をしていた。すると「予算が確保できました。AIで何かできませんか」「トップから指示がありましたので、AIで何ができるかリポートをいただけませんか」といった問い合わせが増えた。これはとても奇妙な事象だと筆者は思ったし、そのようにクライアントに伝えた。

 というのも、本来は(AIうんぬんに関わりなく)解決したい課題や問題があって、その解決にAIを使えないか、と問い合わせがあるべきだ。当時は、例えばサプライチェーンや調達人材のノウハウ継承が問題になっていたから、「ベテラン社員が調達品をいかに価格査定するか」「サプライヤーの評価をいかになすべきか」といった暗黙知をAIに代替させるアプローチがあった。だから、筆者がそのような手法論を伝えると「なるほど、ウチにそのようなニーズがあるか検討してみます」と言われた。

 つまり、手段と目的が逆転しているのだ。

 その後、RPA(Robotic Process Automation)ブームがあり、筆者らの会社がRPAを広める活動をした時も同様だった。「RPAで何が効率化できますか」と聞かれた。「いや、効率化できずに困っていらっしゃる業務を教えて下さい」と言ったのだが、どうも「とりあえず導入を」と言いはやしていたコンサルティング会社が収益を上げる状況だった。これではゴールドラッシュと同じだ、金鉱を掘る(効率化)よりツルハシ(RPAのコンサルティング)のほうがもうかるわけだ、と忸怩(じくじ)たる思いになったものだ。