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写真は本文と直接関係ありません  (出所:123RF)
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 日本経済新聞などで先日から報じられている「国境炭素税」に関する記事が、サプライチェーン関係者の中で話題となった。『「国境炭素税」米議会でも議論始まる 与党議員が法案』『「炭素税」の拡充 軸に検討を 国境炭素調整の課題』などだ。

* 「国境炭素税」米議会でも議論始まる 与党議員が法案(日本経済新聞) * 「炭素税」の拡充 軸に検討を 国境炭素調整の課題(日本経済新聞)

 米国のバイデン政権も欧州連合(EU)も、温暖化ガス削減に向けた政策に熱心だ。米国では2024年1月から「国境炭素調整」を導入する法案を公表、EUも23年からデータ収集を始め、26年から実施予定としている。

 国境炭素税は、細部が未決定なこともあって世の中にあまり理解されていない。しかし、この国境炭素税は企業のサプライチェーンを再考させる可能性を秘めている。

「国境炭素税」の仕組み

 国境炭素税の仕組みを、まず簡易的にで表現してみた。

図 国境炭素税の仕組み
図 国境炭素税の仕組み
左の輸出国は温暖化ガスの排出量削減が進んでおらず、右の輸入国の方が進んでいるとした場合。(出所:坂口孝則)
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 製品の輸出国がある(図の左側)。そして製品を輸入する国がある(同右側)。

 ここで、輸出国が人権を蹂躙(じゅうりん)し国際的にはあり得ない低コストで製品を生産していたとしたらどうだろう。その人権蹂躙の故に完成品が国際的な競争力を持つことになる。その完成品が世界を席巻してしまっては、際限のない人権蹂躙により健全な競争が実現しない。だからこそ全世界的に人権保護が訴えられている。

 これは温暖化ガスの排出でも同じだ。かなりの温暖化ガスを排出しながら生産すれば低コストで製品を生産できるかもしれない。それは輸入国にとって、健全な国内企業の抑圧につながる。

 そこで、脱炭素を進めていない国に対して、自国内の企業レベルに価格をそろえるために課税するというのが国境炭素税の仕組みだ。こうすれば国内製品は不健全な競争にさらされずにすむ。同時に、脱炭素を進めていない国に輸出する際には、税金を還付するとしている。こうすれば国外に出た後に、還付により価格が補正されて安く販売でき、不利な競争状態にはならない。

 ところで先ほどの図で、輸出入の完成品を段ボール箱のような形状で表現した。これはあくまで象徴であって、実際に米国などでは対象物として石油、石炭、鉄鋼、アルミニウム、セメント、天然ガスなどが想定されている。

企業は生産拠点をどこへ置くか

 諸外国の国境炭素税が日本からの輸出品に課されるかどうかは分からない。現時点では、EUは日本からの輸入品に関して国境炭素税が課される可能性は低いとしている。ただし、日本企業の海外拠点があったとして、そこから欧米に輸出していたとする。その生産国の脱炭素対策が芳しくないとすれば、国境炭素税を課される可能性があり、生産拠点の移転を考える必要が生じるかもしれない。

 これまではQCD(品質・コスト・納期)が生産拠点を決める際に重要になったが、これからはQCD+CT(品質・コスト・納期と、炭素・関税)が生産地を左右するかもしれない。

 さらに、国境炭素税の対象になる温暖化ガス排出量の範囲は、現時点の構想ではScope1並びにScope2と思われる。おさらいとして書いておくと、サプライチェーン全体の温暖化ガスの算定は、排出量=Scope1+Scope2+Scope3で計算する。

  • Scope1:事業者自らによる温暖化ガスの直接的な排出
  • Scope2:他社から供給される電気、熱・蒸気使用における間接的な排出
  • Scope3:事業者に関連する他社による間接的な排出

 もしScope3が入るのであれば、自社と取引のあるサプライヤーの排出量までを算定しなければならない。ただ現時点では国境炭素税の算定基準としてScope1並びにScope2を使用するので、まだ難を逃れている格好だ。

 しかし国境炭素税は、サプライチェーン関係者にある種の恐怖を与えている。