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(出所:123RF)
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物流絶望時代

 私はサプライチェーン関連のコンサルティングを生業(なりわい)としている。このところあちこちから聞こえてくるのが「他国からモノがまったく入りません」との声だ。スエズ運河での座礁が世界を騒がせたのは今年の3月のこと。その影響はまだ続いている。さらに、世界的な需要増、年末商戦、湾岸地区でのストライキなど、物流上の明るい話題がない。半導体が入手できないため、生産を止める例が相次いでいる。半導体を正規ルート以外から調達するため本物かどうか試験を行うニーズすら高まっているほどだ。

 その対策として複数社購買がよく上がる。文字通り、サプライヤー1社のみから調達するのではなく、代替サプライヤーを用意しておくのだ。また特採(別規格品を特別採用すること)もある。

 ただ、現実的には短期間で他サプライヤーや他部材を使用するのは難しい。現実的に各社はどうしているか。ヒアリングする限りでは、フォローを重ねたり交渉したりしている程度で、あまり効果的な施策を繰り出せていない。

 サプライチェーン担当者や調達部門には、社内の生産管理部門から納期を縮めるようにとの連絡が連日のようにある。しかし、サプライチェーン担当や調達部門もどうしようもできない。そこで営業部門が客先に出向いて納品遅延の交渉を繰り返す。そこでも交渉はなかなかまとまらないが、交渉を合意しようが合意しまいが、結局ものは入ってこない。解決手法のないもどかしさが現場に漂っている。

半導体入手に苦労する米国医療機器業界

 所詮は民間企業の活動だから、需給の暴騰も仕方ない――。こうクールに考えることはできる。しかし、自国民が必要とする医療機器であればどうだろうか。

 米国には「AdvaMed(Advanced Medical Technology Association)」という医療機器の業界団体がある。彼らが、米国の商務省からの半導体などの調達状況についてのヒアリングに答えている。 * https://www.advamed.org/wp-content/uploads/2021/11/AdvaMed-Response-to-the-Department-of-Commerce.pdf  米バイデン政権が半導体サプライチェーンのリスクに対してパブリックコメントを求めたものに対応したものである。 * https://www.federalregister.gov/documents/2021/09/24/2021-20348/notice-of-request-for-public-comments-on-risks-in-the-semiconductor-supply-chain

 医療機器の業界団体であるAdvaMedは、米国における半導体生産能力の拡大をまずは歓迎した。その上で、医療機器の状況を懸念し、「医療用の用途は、必須でない用途よりも優先されるべきであり、半導体が入手しやすい方法を模索せねばならない("explore ways that chips for medical uses are prioritized over non-essential uses.")」と行政に圧力をかけた。

 米国はこういった情報を開示しているので参考になる。例えば、オランダPhilips(フィリップス)が提出したパブリックコメントを見てみよう。Webページから、彼らの状況を示したワークシートがダウンロードできる。 * https://www.regulations.gov/comment/BIS-2021-0036-0027

 そのファイル(シート名「7b」)を見てみると、2019年までは56~84日で半導体を入手できていたが、現在(21年11月初旬)、マイコンやFPGAの納入リードタイムは365日を超えている(!)。さらに19年は30~60日分を有していた在庫が、現在(同)では0日となっている。

 他社の状況も同様に悲惨だ。医療機器という人命に関わる製品を生産する各社の危機感は強い。某社は、半導体入手リードタイムが1年半ほどに長期化しているといい、やむなく2年分を発注している。

 かつてサプライヤーは、買い手企業からの突然のキャンセルに悩まされていた。しかし現在は立場が逆転している。富士フイルムの関係会社も同じくこのパブリックコメントに回答を寄せている。 * https://www.regulations.gov/comment/BIS-2021-0036-0051  彼らは、最近ではサプライヤーが、予告もなく注文を不履行にしたり、キャンセルしたり、数量を減らしたり、リードタイムを延長したりする事態に直面していると訴えている。これは当然ながら医療機関への医療機器の納品遅延につながる。そこには機器を待っている医療者や患者がいる。

 もちろん売り手からすれば、生産のキャパシティーが限られている状況の中で、なんとか顧客に割り当てているともいえる。しかし、買い手からすれば、売り手に振り回されている状況に他ならない。