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 筆者はサプライチェーンのコンサルティングを生業(なりわい)としている。基本的にはコンサルティング先の企業に訪問するが、テレビ会議の機会も多くなってきた。テレビ会議ならキャンセルしやすい……というわけではないだろうが、2021年は会議のリスケジュールが相次いだ。

 聞いてみると異口同音に「緊急事態が発生している」という。新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)はいまだに仕事に影響を及ぼしているし、一方では需要の急増による部材不足も続いた。他記事でもさかんに報じられている通り、半導体不足、樹脂材料の不足なども起きた。

 サプライチェーンの現場では、国内のみならず世界中でさまざまな異変があった。21年でサプライチェーンに影響を及ぼしたトピックスを挙げ、私たちへの教訓を記してみたい。

[1]ベトナムの停滞

 ベトナムは、原稿執筆時点(21年12月17日)でも1日当たりの新型コロナの新規陽性判明者数が1万5000人ほどに上る。人口が約1億人なので、日本のそれとくらべるとかなり高い水準である。21年の夏ごろから拡大傾向にあり、至る所で閉鎖に追い込まれる工場が増えた。

 結果、ベトナムのサプライヤーから、注文のキャンセル依頼や納品の遅延が相次いだ。機器メーカーは言うに及ばず、世界的なスポーツウエアブランドもベトナムの製造力に依存している。多くの企業が潜在的な売り上げを失う結果になった。港湾でも同様の問題が生じ、ホーチミン港では貨物の滞留時間が延びた。労働力も最盛期の半分程度に下落した。

 ベトナムはかつて中国の代替として、部材などの調達先やアセンブリー先として重宝されていた。しかし、新型コロナの影響で、アジアの周辺国からベトナムに新規労働者たちが集まれなくなった。労働力不足はさらに深刻化する可能性がある。

 同国の工場は10月から徐々に再開している。とはいえ、オミクロン株の影響は不透明で、かつ労働者不足が解決する糸口はまだ見えていない。

[2]インドの停止

 中国からの代替国という意味ではベトナムと近い立ち位置のインドにも不幸が襲いかかった。このところは新型コロナの1日当たりの新規陽性判明者数が7000~8000人ほどに落ち着いているが(同国の人口は約14億人弱)、21年5月ごろは1日40万人を数えていた。検査を実施していない人も相当数にのぼるとみられ、実際にはその何倍もの陽性者がいたのだろう。

 実は医薬品の有効成分の80%は主にインドか中国で生産されているという。米中経済戦争のあおりで、調達先を中国からインドに移管させる動きがあったが、新型コロナによってインドの生産状況が悪化するのにともない、再び中国にサプライチェーンを切り替える動きがみられた。経済対立とサプライチェーンの見直しが逆転した格好だ。

* 米上院財務委員会のWebサイト

 現時点でも生産しているが、21年は自動車産業向けの生産を一部停止し、新型コロナの患者向けの医療用にリソースを振り向けた(このこと自体は当然ではあっただろう)。その他、工業機器、アパレル、部材などのインドからの調達品が停止したり、サプライチェーンが混乱したりした。なお、インドはグリーン水素(製造工程CO2を排出せずに造られた水素)の生産を拡大すべく、大規模な投資計画を発表している。

[3]中国の都市封鎖

画像はイメージです(出所:123RF)
画像はイメージです(出所:123RF)

 中国は20年の段階での新型コロナのまん延と同時に、その都市を封鎖し、他都市に影響が波及しないような政策を取ってきた。この善しあしは置いておくとして、こうした強権的な政策によってサプライチェーンが影響を受けた。

 香港では8月に新型コロナの症例が報告されると、すぐに貨物の輸送が制限された。中国では安全な地域と見なされるまで厳格な対応が続き、貨物関連の労働者は、働く週、検疫の週、自宅待機の週、などが設定された。こうすると単純に労働力が3分の1に減る。

 企業は対応策として空路を中国南部に迂回させたり、西部に行かせたりした。なお香港は一例であり深セン、寧波などでも同様の事態が起きた。北京オリンピックが22年に迫っているが、それを成功させるため、今後オミクロン株の感染が拡大する傾向が認められれば「症例の発見→都市封鎖」といった動きが同国内で散発する可能性が高い。

[4]米国のハリケーンなど

 今月(21年12月10日)、ケンタッキー州をはじめ中西部・南部で深刻な竜巻の被害が発生した。米Amazon.comの倉庫が崩壊したのも記憶に新しい。しかし、これだけではない。21年は幾つもの自然災害が米国を襲った。

 8月にはルイジアナ州を襲ったハリケーンが、サプライチェーンに大きな影響を及ぼした。ニューオーリンズ港は閉鎖され、鉄道も停止。大手メジャーの製油所が稼働停止してエネルギー供給が止まった。ハリケーンは電力の供給も止め、自家発電をもたない企業や住民はなすすべもなかった。その後はトラックの配送料が上昇していった。

 カリフォルニア州では山火事で甚大な被害が出て、日本でも報じられた。積雪が少なくなって乾燥する時期が続き、山火事が頻発した。カリフォルニア州では火災件数が例年の2倍ほどにも上り、広大な面積が焼けた。サプライチェーンの面ではトラックが迂回して配送せざるを得ず、山近くの倉庫の見直しも進んだ。

画像はイメージです(出所:123RF)
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