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(出所:123rf)
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人権サプライチェーンへの注目

 先日、中国・新疆ウイグル自治区の問題にまつわる、米国による制裁措置について広く報じられた。ジョー・バイデン大統領は、同自治区が直接・間接的に関わった製造物を輸入しないとする法律にサインした。そのような製造物は、強制労働などへの関わりがないと証明できない限り、米国に入れられない。

 米中の経済戦争がいまだに収まらない状況や、北京オリンピックへ各国が外交ボイコットに踏み切る文脈のなかで、人権弾圧が疑われる同自治区への注目が再び集まっている。

 ところで、どこか米国はウイグルにだけ特化しているような印象がないだろうか。実際には米国は人権弾圧が疑われる他国にも同様に制裁を課している。例えば、コロナ禍で需要が急増している使い捨て手袋。不思議なことに日本ではほとんど注目されなかったが、米国は2021年12月、マレーシア・ブライトウェイ(Brightway Holdings)グループからの使い捨てゴム手袋の輸入を禁止した。ブライトウェイでの強制労働が判明したためとしている。

 つまり中国や特定国に限らず、人権リスクは世界中に広がっているといえる。以前なら「人権順守のサプライチェーンをつくらねばならない」との主張は、声高ではあってもイメージ先行だった。しかし今や、企業は人権問題でビジネスが止まってしまうリスクを抱えることになった。

 例えば、自社のサプライチェーン上にいるサプライヤーが重要部品を製造しているとする。ここで、代替サプライヤーがなく、そのサプライヤーが人権上のリスクを抱えていれば、いつ供給停止になるか分からない。

ESGインフレという潮流

 ところで話が変わるようだが、現在、企業間物価が上昇しているのもご存じだろう。多くは原油などのエネルギーや、食料の高騰によるものだ。それと同時に、「ESG(環境・社会・ガバナンス)インフレ」、あるいは「SDGs(持続可能な開発目標)インフレ」という状況が生じつつある。

 先ほど人権サプライチェーン構築の話をした。これまで管理しなくてもよかったサプライチェーンの透明化にコストがかかる。また、人権を蹂躙(じゅうりん)している可能性のある取引先には監視・管理コストもかかる。さらに、指導する手間や工数も必要だ。

 それに加えて、脱炭素への取り組みをサプライヤーに求めなければならない。要求を出すこと自体は簡単だが、管理や指導にコストがかかる。グリーン電力に切り替えても、グリーン電力証書を買っても、どちらも費用がかかる。

 このようにESGやSDGsの実現にコストがかかるという理由で、欧州などのサプライヤーからの製品は価格が上がる方向になっている。購買する立場では、これを手放しに認めるのは難しい。サプライチェーン全体のコストが上がるからだ。一方で「サプライチェーン全体として脱炭素を目指そう」と言っている手前、ESGやSDGsのための価格上昇を全く否定するのも理屈が合わない。現場はこのような二律背反に陥っている。

VA/VEのブーム再来

 さて、前述の人権サプライチェーンやESGインフレの流れを受けて、このところ新たな傾向が生じている。筆者はサプライチェーン関連のコンサルティングに従業している。その中で、「VA/VE(Value Analysis、Value Engineering)の再ブーム」とでもいうべき動きが見られるようになっている。

 つまりこういうことだ。「人権やSDGs、脱炭素などに注目が集まる」→「さらにコストもかかる」→「ならばその分のコストを他で低減するしかない」。

 正確には、この文脈でVA/VEというのは少し意味が異なっており、本来のVA/VEはコストを低減するだけではなく、品質向上につながる施策を含む。ただ現実には上記のような文脈で、もっぱらコスト低減の観点からVA/VEという言葉がしばしば使われる。これまではVA/VEと言いながら実態は単なる価格交渉だったり、単に仕様の剥ぎ取りを意味したりすることもあった。

 しかし、いよいよサプライヤーと自社の両方にメリットのある取り組みを開始しようというわけだ。人権や脱炭素に取り組まねば、製品を買ってもらえない時代がすぐそこに来ている。だからその分のコスト上昇は甘受するとしても、自社とサプライヤーが手を組み共創する姿勢は評価されていい。