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写真と記事は直接関係ありません。(出所:123RF)
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 日本の誘致によって台湾TSMC(台湾積体電路製造)がソニーグループとともに熊本工場を新設すると決まった。回路線幅は22~28nmになる予定で、最新の回路線幅ではなく自動車向けだ。ただTSMCが進出するインパクトは大きく、注目が集まっている。半導体の入手先が国内に増えるのも経済安全保障上のメリットがある。

 しかし2021年12月2日に大きく報じられた内容(日刊工業新聞)によれば、昨今の人手不足で工場に人材が全く確保できていない。1500人以上が必要とみられるが、全くめどが立っていない。さらにソニーグループ自身も人手不足で苦慮している状態だ。

 需要急増で半導体技術者自体がそもそも獲得戦争になっている。さらに新型コロナウイルスのオミクロン株の問題で海外からの人材も入るのが難しい。TSMCは米国の工場を新設する際に数百人単位を派遣している。熊本にも派遣するはずだが、日本政府の外国人受け入れの基準次第では支障が出るだろう。

 さらに先日、企業経営者の方や幹部の方からも興味深い話を聞いた。そもそも熊本の工場建設現場近隣で宿泊場所をどう確保するのか。また移動ルートや手段をどう確保するのか。また、台湾の技術者の方々が訪日したとき、ご家族の住まい、教育施設などをどうするのか。課題が山積みになっている。時間は工場稼働開始の24年末まで、あとわずかしかない。

 TSMC工場誘致はめでたいことだが、現時点の問題は、何か半導体業界と付き合う私たちの混乱をも象徴しているように思われる。

半導体入手騒動

 「どうしても入手せなあきません」。昨年から半導体入手についての窮状を教えてくれる顧客が増えてきた。筆者はそもそも半導体に特化したサプライチェーンの専門家ではないが、顧客は何とか打開案を探っているのだろう。現場の調達担当者から役員クラスまで、半導体入手のために奔走している。

 筆者と会話をしている最中にも、顧客の責任者には「あるところで半導体が見つかった。しかし、これまでの10倍の価格です。ブツを押さえますか」といった電話がかかってくる。「よっしゃ。20倍までやったら確保しろ」と返事。物量の確保が最優先で、この期に及んで価格交渉をしようとする人たちはいない。

 なお、米Susquehanna Financial Group(サスケハナフィナンシャルグループ)のレポートによれば、半導体全般を発注してから入手するまでのリードタイムはこの2年で延び続けている。最新データの21年12月では26週ほどだ。参考に2020年1月は約13週だった。

* Susquehanna Financial Groupのレポート

 この半導体不足のために、自動車各社が満足な生産ができずに販売実績を落としたのはよく知られる。半導体業界は、顧客企業があらゆるところに重複をいとわず注文しており、そのうちキャンセルされ製品がダブつくのではないかと逆に恐れているが、現状では品不足が続いている。

 半導体はそれこそ至るところで使われ、現実化しつつあるIoT(Internet of Things)の世界では関連装置に無数の半導体・電子電気部品が載る。生産を止めないためには、あらゆるルートを使って入手を試みる必要がある。そこで「どうしても入手せなあきません」と出所がはっきりしない半導体にも触手を伸ばすしかなくなる。

 すると問題になるのが偽造半導体問題だ。

偽造チップにどう対応するか

 おそらく、半導体の調達に関わっている人なら、正規代理店以外のアジアのさまざまなところから半導体の在庫情報が流れてきているはずだ。その中には偽造品がある。

 この偽造品なのだが、どれくらいの規模だろうか。統計上ははっきりしない。少し前の19年に750億米ドルと語る人もいる。よく分からないものの、1690億米ドル以上の機器に組み込まれたと推定される。

* 偽造半導体のレポート(Hailey Lynne McKeefry , "Counterfeits Costing Semiconductor Industry Billions", EE Times Asia)

 一見、正規ルート以外から調達したほうが入手期間は短縮できるように思えるが、もちろん偽造のリスクがある。ブローカーによっては品質保証がなく、さらに製造番号すらもはっきりしない。外部からのハッキングや情報漏えいの可能性すらある。

 そこで正規外のルートから調達する場合は、その販売者の与信管理や企業調査が必要だ。彼らの知識範囲のチェック、製品管理手法、品質管理手法、入手元のヒアリングも欠かせない。さらに、入手した半導体の検査、テストなどによって特性の信頼性を確保せねばならない。

 一般的に、半導体は外見をまねるのはやさしくても、中身までを模倣するのは難しい。だから目視検査や動作確認とともに、内部を見て正規品と比較するためにX線検査などが用いられる。

* X線検査の例