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TESLA Model Sの電池モジュール (本文と直接関係ありません。出所:日経クロステック)
TESLA Model Sの電池モジュール (本文と直接関係ありません。出所:日経クロステック)
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好調なテスラの決算報告

 米Tesla(テスラ)の決算報告を聞いて、「おっ」と声を発した人は多いかもしれない。2022年4月20日の第1四半期報告についてだ。アナリストたちの予想を上回る素晴らしい業績だったが、それだけではない。

 もちろん収益と利益は素晴らしかった。自動車の売上高は168.6億ドルだったから、前年同期と比べて87%も増加した。さらに売上高から製造原価を引いた粗利益率は32.9%だ。20%あれば良いとされる自動車産業においてはかなりの率といえる。これはもちろん販売台数が伸びたためでもあるし、平均売価も上がって、業績にはダブルで効いた格好だ。

 工場を置く中国の上海では新型コロナウイルス禍に伴うロックダウンに直面するなど、テスラにとっての見通しは完全に良いわけではない。注文に対して納品が遅延する懸念もあるし、世界はインフレ基調で半導体不足が続き、さらにはウクライナ危機の終わりは見えない。それでも同社は、できるだけ速やかに回復基調にして年間50%成長を続ける、と取り組みに自信を見せた。

 報告会では、自動運転のロボタクシー開発を紹介するなど、さまざまな「楽しませてくれる」趣向もあった。株価は報告後に上昇した。しかし、筆者の注目を引き、「おっ」と思わせたのは、これらと異なる点だった。

イーロン・マスクのすごさ

 その驚くべき点は決算報告書に書かれている。

“Diversification of battery chemistries is critical for long-term capacity growth, to better optimize our products for their various use cases and expand our supplier base. This is why nearly half of Tesla vehicles produced in Q1 were equipped with a lithium iron phosphate (LFP) battery, containing no nickel or cobalt.”

「バッテリーの使用材料の多様化は中長期的な成長にとって重要だ。それは我々の生産を最適化するためであり、サプライヤー(取引先)を拡大していく。このような理由から、第1四半期に生産されたテスラ車のクルマの半数近くにはニッケルやコバルトを含まないリン酸鉄リチウム(LFP)バッテリーが搭載されている」

* テスラによる説明

 バッテリーにニッケルやコバルトを含まないクルマが半数になった、と書かれているのだ。これはイーロン・マスク氏(CEO:最高経営責任者)がサプライチェーンを重視し、材料が入手困難になる状況からできるだけ距離を置く意思と戦略を示している。

 なぜそう言えるのかは、マスク氏がこれまでにもニッケルやコバルトの調達の問題について何度も触れてきていたからだ。より多くのクルマをLFPバッテリーへと移行する旨の戦略を常に語ってきた。

 しかし、これほど早く実現するとは誰も思わなかっただろう。LFPバッテリーでは充電1回当たりの航続距離を長く取れないといわれていた。ニッケルやコバルトを使わないバッテリーは、調達面からも品質面からも好ましいが、性能面に難があった。

 とはいえ、それはあくまでその時点での話であり、技術改善への期待はあった。そしてマスク氏本人だけではなく企業としても、脱ニッケルと脱コバルトを果たしたLFPバッテリーを活用すると宣言してきた。それを今回の決算発表では、実績として喧伝(けんでん)したわけだ。