全2918文字
PR
(出所:123RF)
(出所:123RF)
[画像のクリックで拡大表示]

お金がなく堕落する人たち

 全く個人的な話から始めて恐縮だが、筆者はコンサルタントという職業上、さまざまな経営者とお会いする。VC(ベンチャーキャピタル)などの投資家とも出合う機会がある。彼らは会社従業員とは異なり、一獲千金で大きな利益を手にする機会もある。それと裏腹に落ちていくリスクも有している。

 新宿の歌舞伎町あたりで「社長!」と声を出してみよう。肩書が本当に社長かどうかはともかく、相当数が振り向くだろう。しかし、数年後にその少なからぬ割合が姿を消す。

 以前、渋谷に居を構える経営者と懇意にしていた。誘われるままに夜の街も共にした。しかしその人は外部からのアドバイスに聞く耳を持たず、やがて社の業績が下落していった。

 あれほど栄華を極めた知人の堕落を見るのは悲しい。しかし異変を感じた筆者が意見を言っても無視されるようになり、距離を置かざるを得なかった。そのうちその人は取引先や関係者にも難癖をつけはじめ、対価の支払いを渋ったり、減額を求めたりするようになったと聞いた。

 「貧すれば鈍する」とはよく言う。しかしそれは観念上のことであって現実とは別、と筆者はそれまで感じていた。ただ、その人の現実を前にしては、筆者が世間知らずであったと知るしかなかった。

「貨物盗難レポート」の衝撃

 中国・上海では2022年6月1日にロックダウンが事実上、解除された。これにより同都市での生活が復旧しつつある様子が報じられている。

 上海港は中国の輸出入の一大拠点であり、中国で最大の港として知られる。この上海港の停滞は、日本を含む各国の製造業に大きな影響を与えたことは各種の報道で明らかになっている。

 ところで先日、BSI(英国規格協会)がTT Club(英Thomas Miller Group)、TAPA EMEA(輸送資産保全協会欧州支部)と共に発表したレポートが関係者に衝撃を与えた。BSIはサプライチェーンの監視サービスなども提供しており、TT Club はサプライチェーン向けの保険サービスで、TAPAは荷の安全を図る団体。彼らが出したレポートは、その名も「2021 Cargo Theft Report(貨物盗難レポート)」、つまり貨物の盗難状況を生々しく描いたものだった。

2021 Cargo Theft Report
2021 Cargo Theft Report
(出所:BSI、TT Club、TAPA EMEA)
* 2021 Cargo Theft Report

 新型コロナウイルス感染症拡大は物流に限らず、あらゆる経済分野に問題を引き起こした。そしてあるグループの人々には所得の減少をもたらした。失業した人もいれば、勤務先の業績低下から減給や勤務日数減少を経験した人もいた。筆者が先ほど挙げたことわざ「貧すれば鈍する」と無縁ではいられない人もいたであろう。

 実に2020年までの状況と比して、物流滞留時の貨物の盗難が増えているのは示唆的だ。上海港に限らず、新型コロナウイルス禍で物流拠点は機能不全に陥り、停滞状況にあった。トラック業者が不足し輸出入の貨物を運べず、コンテナが滞り続けていた。そして、その滞留のタイミングで盗難が増加していた。

 盗難の対象品目は次の通りだ。

  • 飲食物:14%
  • 農作物:12%
  • 電気製品:10%
  • 建設資材:9%
  • 燃料:7%
  • 自動車:6%
  • その他:42%

 盗難の多い国として次が挙げられている。ブラジル、インド、メキシコ、ロシア、ドイツ、米国、英国。新興国に限らず、米国などの先進国も挙げられているのは興味深くもある。

 貨物が長時間にわたって放置される、さらに貨物列車に乗せようと運ばれても、倉庫などで長時間待たされる。「あの倉庫の中身は、どうやら世界中で不足が報道されている半導体らしいぞ……」となれば、「チャンス」に映る人たちもいるのだろう。

 さらに貨物置き場の混乱は、管理を難しくさせる。管理をおろそかにしているわけではなくても、物が散乱して置き場所が広がってしまうと、どうしても1つひとつには監視の目が届きにくくなってしまう。その貨物が市況で高騰しているものであれば、盗難のインセンティブがとくに高まる。到着した船から貨物が降ろされ、屋外に運ばれ、翌朝トラック運転手が到着すると、その貨物が消えている。

 話を同レポートに戻せば、内部犯行の可能性も示唆している。ある種の犯罪集団が関わり、物流関連の内部関係者と通じている可能性だ。例えば、貨物の保管場所といっても、誰もが侵入可能ではない。しかし内部関係者と通じていれば、特定のゲートを開きっぱなしにしたり、あるいはドアロックを解除したりできる。欧州の例では、盗難事件の実に20%は内部協力者が存在するとしている。

 国内の製造拠点から港までの間で盗難が発見できればまだましかもしれない。しかし搬送途中に一部を抜かれ、遠い海に行ってしまった場合、盗難の事実に気づくことさえ難しくなってしまう。