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 「9.11」や「3.11」など、人びとが記憶している事件や災害の日付がある。もしかすると、「7.8」もその類に入るかもしれない。説明するまでもなく、安倍晋三元内閣総理大臣が暗殺された日だ。

 この事件に関しては、まだ全貌が明らかになっていない。さらに報道の多くはリーク情報が元になっているため、リーク元の意図や見方が影響している情報とみてよいだろう。容疑者が抱いた特定の宗教団体への怨恨や動機などについての情報も報道されているが、断定的に論じることは避けたい。少なくともジャーナリストではない筆者にとってはそうだ。分からないものは分からない、とわきまえる分別は持とうと筆者は思う。

 ともあれ、安倍元首相が鬼籍の人となった。政治信条や個人的な好みを別としても衝撃を受けた人は多かったに違いない。筆者もその1人だ。どんな人であれ殺されることは悲しく、さらにあやめた行為は批判と非難にさらされるべきだ。

 筆者が日ごろ会うのは職業柄、サプライチェーン関連の方々が中心だが、企業人と話すと、やはり事件の当日は事件をどう受け入れたらよいかを整理するいとまもなく、激しい感情の揺れが感じられた。

 事件の全体像の解明にはまだ時間がかかりそうだが、一方でこれからのサプライチェーンにどう影響するかという観点でも考えていかざるを得ない。

今後に考えておくべきこと

 企業人たちから、安倍元首相の事件と今後の経済を明確に結び付けた意見を聞くことはほぼない。政治と経済は密接だが、現場レベルでは関係性をもって語られるケースは少ない。誰だって実務で忙しいし、実務家は評論家ではない。一部の経営者に例外があるかもしれないが。

 それでも企業間の商談の口上で「これからどうなるのでしょうね」と言葉を交わす場面は多く見られる。おそらく安倍元首相が、これまでの日本経済政策のある種の象徴となっていたからだろう。

 もちろん特定の政治家の一人が存在するしないにかかわらずに、優れた政策は続くだろうし、効果のない政策は途絶える、と理屈上は考えられる。しかし著名な政治家の逝去はこれまでの政策を優劣に関係なく方向転換させる可能性があるだろう。

 現在、企業間取引の物価が上がっている。国内企業物価指数は2022年6月の速報では前年比で9.2%も上昇した。

* 国内企業物価指数2022年6月速報

 それでも川上(素材領域)、中間財、最終財と見ていくと、いまだに最終財への価格転嫁が完全には進んでいない。最終財への価格転嫁が進むためには積極的な財政政策で消費を盛り上げる必要がある。

国内企業物価指数(2020年基準)と消費者物価指数(同)
国内企業物価指数(2020年基準)と消費者物価指数(同)
(出所:国内企業物価指数は日本銀行、消費者物価指数は総務省統計局それぞれのデータを基に日経クロステックが作成)
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 安倍元首相の話をしたが、積極財政派の存在感が薄まったとしたらどうなるだろうか。もしかすると、エネルギーや原材料は高騰するものの、景気がさほど盛り上がらないためコスト増加分を最終価格にさほど転嫁できなくなるのではないか。

 ここからは、そういった4つの可能性を論じる。