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 先日、岸田文雄首相が次世代型原子力発電所の新設を決定した。正確には、新設検討の“指示”である。その次世代型とは革新軽水炉か小型モジュール炉か小型核融合炉なのかははっきりしない。ただ、これまでのエネルギー政策を転換したといえる。電力不足の解消と火力発電依存を避ける目的だ。

エネルギー危機はあっても脱炭素は去らず

 2050年までのカーボンニュートラル(炭素中立)実現を日本が宣言したあと、ウクライナ危機に端を発する原油高騰、円安などが発生し国民の関心が急速にエネルギー問題に移ってきた。欧州は、これまで否定的な立場を取っていた原子力発電やLNG(液化天然ガス)などにも肯定的な評価を与えている。ロシアからのエネルギー供給に期待できなくなる中、脱炭素の動きだけは何とか止めたくないらしい。

 日本もカーボンニュートラルの旗印を下ろそうとはしない。民間企業も、脱炭素に向けた取り組みを対外PRのなかで重点項目と位置づけ続けている。

 企業の現場は、疑問を感じながらも脱炭素の取り組みを進めている。今回は現場報告として脱炭素の取り組みの虚実を紹介したい。

企業の本音

 東京の某社にお邪魔したときのことだ。脱炭素のサプライチェーンについて検討している、とのことで訪問した。なおこの企業とは結局、プロジェクト開始に至らなかった。

 筆者はサプライチェーンのコンサルティングに従事している。コンサルタントとは顧客の「こうしたい」という思いを支え、施策の立案や具現化に向けて伴走する役割を持つ。しかし、奇妙なことに「こうしたい」という思いが存在しないケースも少なからず見受けられる。同業者であれば合意いただけると思うが「上からの指示」「何となく」「本当はやりたくない」など、個別にはもろもろの状況がある。

 このようなケースでも、企業は「サプライチェーンにおける脱炭素を図りたい」と言う。しかし実際に聞いてみると、報告書の形にさえできればいいようだった。実際に脱炭素が実現できると信じているわけではない。

 いや、実は信じていなくてもいい、と筆者は思っている。ただ全社方針であれば、せめて検討や取引先への投げかけには真剣に取り組むべきだろう。

 2050年には私たちはもう働いていませんから――とストレートに言われたわけではない。ただ将来、その時はその時で対策をするでしょう、という認識だった。筆者はこの企業を批判したいわけでもない。というのも、多くの企業の本音を示しているように思ったからだ。

まじめに脱炭素に取り組む企業の苦悩

 もちろん多くの企業が脱炭素に真剣に取り組んでいる。それは日本企業の真摯さともいえる。ここで、二酸化炭素(CO2)の排出にざっくり区分が存在することを復習しておきたい。

  • Scope1:自社の燃料燃焼によるCO2(あるいは同等物)の排出量
  • Scope2:自社が使用している電力生成によるCO2(あるいは同等物)の排出量
  • Scope3:取引先から調達する原材料などの生産に関わるCO2(あるいは同等物)の排出量
図 CO<sub>2</sub>排出量に関する「Scope」
図 CO2排出量に関する「Scope」
Scope3についての排出量把握が難しい。(出所:坂口孝則)
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 カーボンニュートラルを宣言する前から、日本には地球温暖化対策推進法(地球温暖化対策の推進に関する法律)、省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)がある。また電力会社の再生エネルギー電力供給も進んできた。自社でのCO2排出については以前から対策が考えられている。しかし難しいのはScope3だ。

 細かく見ると、Scope3にはまず、上流工程にかかわる社員の通勤、物流などが網羅的に入っている。合わせて、下流の製品使用や製品廃棄にかかわるCO2(あるいは同等物)の排出量も算定しなければならない。ただ、これらよりもっともややこしいのが、取引先から調達する原材料などの生産に関わる領域だ。