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記事内容に直接関係ありません。(写真:123RF)
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 政府は2022年9月13日、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定した。サプライチェーン関係者だけではなく、営利活動を営む人であれば全員が対象となる。直接、間接を問わずグローバルなサプライチェーンに関わりを持つからだ。

 当ガイドラインは内容が重厚で多岐にわたるため、重要箇所を抽出しながら解説したい。

* 責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン

 前提として、国連加盟国は国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」が示すように人権尊重の責任がある。事業活動によってお金が流れる際、そのお金を受け取る側であっても払う側であっても、その過程で人権が順守されることを確認しなければならない。

 特に、自社だけではなく、自社のサプライチェーンにおいてサプライヤーの人権が順守されているか注視する必要がある。強制労働、児童労働の禁止、従業員の結社の自由、団体交渉権の確保、雇用における差別の撤廃、宗教や社会的出身、性別の違いにおける差別の撤廃などの観点がある。

人権順守サプライチェーン構築にむけて

 具体的に企業は何をなすべきか。まず、リスクが重大であると想定できる事業領域を特定せねばならない。この特定はどうしても抽象的にならざるを得ないが、特定の原材料について上流過程で人権侵害が予期されたり、事業に関わる特定国で貧困が存在したりといった情報や、過去の事例などから判断することが望ましい。

 そして、人権侵害によってどのような負の影響があるかを想定して、アンケート調査や現地確認を行う。現地確認は必須ではないものの、現地確認しないと分からない事実も多いため、積極的な実施が推奨される。推奨例として挙げられているのが、採用予定の海外サプライヤーが利用する土地について、もともと先住民族から収奪したものではないとの情報確認である。個人的にはなかなか難易度が高い活動と思う。

 そのうえで、企業は人権順守のためのコミットメントを公表するのが望ましい。さらに形式上だけのコミットメントではいけない。以下のような要件が示されている。

  • 企業トップが承認している
  • 企業内外の専門的な情報や知見を参照している
  • 企業の関係者に対する人権尊重の期待が明記されている
  • 一般に公開されている
  • 人権方針の定着手法が事業方針や手続きに反映されている

 上記に加え、サプライヤーに対してはCSR(企業の社会的責任)調達方針説明会などを実施し、対話の機会を持つ。

どこまでが問題か

 今回、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」で筆者が興味深く感じたのは、企業の発注行為におけるサプライヤー人権侵害の可能性だ。企業が発注する際に、市価にくらべて著しく低い対価だったり、合理性を欠くような対価だったりすると、結果的にサプライヤーの従業員の最低賃金が守られない可能性がある。あるいは残業代が支払われない可能性があるだろう。

 それらに加えて当ガイドラインでは、人権侵害を引き起こす可能性がある例として、短いリードタイムの発注(納品日までの期間が短い依頼)を挙げている。それがサプライヤー労働者の長時間労働に結び付く可能性があり、「負の影響を助長する」としている。

 実際にどこまでを気にすべきか完全に明らかではなく、不透明にならざるを得ない側面はあるだろう。批判したいわけではなく、ガイドライン作成者の苦悩と苦労が透けて見えるところだと思う。

 ただ、ガイドラインでは深刻度による判断基準を紹介している。

  • 規模:影響の重大性
  • 範囲:影響の範囲(被害グループの大きさなど)
  • 救済困難度:回復困難性(状況の改善が可能か)

 おそらく、ある種の常識をもって個別判断していくしかないのだろう。

 なお、この節の小見出しを「どこまでが問題か」とした。筆者が注目する点の1つに、外国人技能実習生の問題がある。諸外国では日本の外国人技能実習生制度を“現代の奴隷”とみなすケースがある。また外資系企業によっては、日本国内の関連企業や協力企業が外国人技能実習生を受け入れているのを快く思わず、来日費用などを負担しない場合もある。