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米合衆国議会議事堂(本文と直接関係ありません。写真:123RF)
米合衆国議会議事堂(本文と直接関係ありません。写真:123RF)
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 先月、この連載で筆者は“戦慄の報告書”を紹介した。タイトルは「Automotive Supply Chains and Forced Labor in the Uyghur Region(新疆ウイグル自治区における自動車産業と強制労働)」。英Sheffield Hallam University(シェフィールドハラム大学)のLaura Murphy(ローラ・マーフィー)教授が中心となってまとめたものだ。

* Automotive Supply Chains and Forced Labor in the Uyghur Region

 概要を述べれば、「ほぼ全ての有名な自動車は新疆ウイグル自治区の強制労働と直接・間接的に関わっている」というものだった。領域は、鉄鋼、アルミニウム、銅、バッテリー、エレクトロニクス、その他(縫製など)となっており、全てに影響が及ぶとした。

 具体的な企業などの固有名詞は同報告書を参照していただければと思うが、自動車メーカー、自動車部品メーカーの主要50社は特定されている。ウイグルの労働力を使って中国メーカーが生産し、それが世界中に輸出されている実態を描いている。

 これまで、衣類や太陽電池についてはしばしば新疆ウイグル自治区の関与が疑われたものの、自動車部品製造における同自治区の関わりについては注目されてこなかった。しかし、自動車産業まで関与があるとなると、影響は大きい。

 欧州も米国も、サプライチェーン上の人権侵害を容認していない。米国は新疆ウイグル自治区が関わっていると合理的に考えられる商品があれば、税関で輸入を止めているほどだ。

 その米国の動きは速かった。米国上院議会は主要な自動車メーカー8社に対して質問状を送付した。各社への質問状は全てWebサイトで公開されている。

* 自動車メーカーへの質問書の例(American Hondaの場合)

 質問状では、中国による新疆ウイグル自治区での人権蹂躙(じゅうりん)は容認できないとした上で、同自治区において生産された部材や原材料を使って自動車を販売すべきではなく、生産すべきでもないと述べている。かなり強い表現で求めているのが、「部材や原材料について同自治区の強制労働への関わりがない、とデューデリジェンス(リスク調査)を実施せよ」としている点だ。

 もちろん、議員も現代のグローバルサプライチェーンが複雑怪奇になっている事情は理解している。ただ、いかに複雑であろうと人権を守らない状況は当然許されない、とした

* 筆者は、中国による新疆ウイグル自治区での人権蹂躙が存在していると考えているものの、1次情報を得ていない。ここでは、米国上院議員の述べた内容として紹介する。