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(写真:123RF 画面ははめ込み合成)
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SHEINの快進撃

 「その企業は記事にならないですよ」

 数年前、筆者がアパレル企業のシンガポールSHEIN(シーイン)についての記事を企画して編集者に伝えたとき、そんな感想を教えてくれた。現在でも、もしかすると中高年にはなじみの薄いブランドかもしれない。しかし、お子さんに聞いてみてほしい。SNS(交流サイト)を中心に高い知名度があり、若い世代を中心に大きな訴求力を持っている。

 いわゆるファストファッションだが、筆者に言わせればファスター(faster)ファッションだ。ファストファッションよりも早い(速い)。世の中の流行を機敏に察知し、ただちに商品を作り上げる。その商品数はWebサイトを見ても無数と思えるほど多い。一説によると1日の新作アイテム数は6000にのぼり、常時30万アイテムを販売する。

 ロットサイズを極小化し、安価に提供する。サプライチェーン全体をDX(デジタルトランスフォーメーション)化し、さらにAI(人工知能)を活用してアイテムのデザインを量産。売れ筋のみを販売する。SEO(検索エンジン最適化)対策によりネットでのPRにも強い。

 なるほど、かつてファストファッションブランドは、欧州のファッションショーを見て類似のアイデアを練るといわれた。現代のブランドはSNSのバズ(くちコミ)を見て商品を作り上げるのだ。アパレル企業というよりも、アパレルを売っているテック企業という形容がふさわしいと感じる。

 筆者の周囲でも、例えば家族が数アイテムを購入していた。個人的な感想では、商品の質についてはあまり魅力を感じなかった。しかし、聞いてみるとSNSでの写真映えが重要であり、見た目のかわいさが重要らしい。テック企業だけあって商品の検索、選択、注文は極めてスムーズで心地がよい。

 同社はしばしば中国企業と呼ばれるが、実際にはシンガポールに本社を登記している。先日、中国人経営者の前で講演する機会があり、その参加者に聞いてみたところでは、意外にもSHEINを知る人は多くなかった。参加者の年齢が高かったためかもしれないが。同ブランドはブラジル、米国、タイ、日本、フランスなどで人気と知名度があり、購入者の中には10代も多い。

 SHEINはいつの間にかH&M(スウェーデンH&M Hennes&Mauritz)、ZARA(スペインInditex)に肩を並べるほどになった。