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 新型コロナウイルスの感染拡大で不足する医療器具の生産に、3次元(3D)プリンターを活用する動きが加速している。例えば、トヨタ自動車は国内の工場で3Dプリンターを使って医療用フェースシールドを生産する。米国や欧州で既に進めていた取り組みを国内でも展開する形だ。「機械本体と材料、3Dデータさえあれば誰でも手軽に物を造れる」という3Dプリンターの特徴が、新型コロナの騒動の中、改めて脚光を浴びている。

 3Dプリンターで造る物で最も多いのはフェースシールドだ。フェースシールドは、顔全体を覆って感染を防止する保護具で、透明な保護部(樹脂フィルムや樹脂成形品、ガラス成形品など)と体に固定するためのフレーム(眼鏡タイプやヘッドバンドタイプなど)から成る。3Dプリンターで造るのは主にフレームだ。この他、人工呼吸器の部品やマスクの生産に3Dプリンターを活用する事例もある。

3Dプリンターで医療器具を生産する事例
異業種企業や個人の呼びかけによるプロジェクトが続々と登場している。
品目主体概要
フェースシールド3DCrowd UK英国の医師であるジェームズ・コクソン氏の呼びかけで立ち上がった団体。フェースシールドを生産する3Dプリンター保有者を募集している。
アディダス(Adidas)3Dプリンターメーカーである米カーボン(Carbon)の機械や同社が公開している3Dデータを活用してフェースシールドを生産している。アディダスはもともとシューズの開発や生産でカーボンと提携していた。
エアバス(Airbus)スペインの拠点で20台超の3Dプリンターを24時間態勢で稼働させてフェースシールドを生産。3Dプリンターで造形するフレームの材料はポリ乳酸(PLA)。設計に関連した特許を取得している。この拠点はほとんどの活動を停止しているが、フェースシールドの生産は許可されている。同社のドイツの拠点も支援に乗り出した。
グループPSA(Groupe PSA)ブラジルの拠点で3Dプリンターを使ってフェースシールドを生産する。
神奈川大学経営学部准教授の道用大介氏がフェースシールドのフレームの3Dデータを設計。オープンソースソフトウエアとしてGitHubで公開している。保護部には市販のクリアファイルを使用。
ランボルギーニ(Lamborghini)3Dプリンターを使ってフェースシールドを生産。生産数は200個/日。
日産自動車米国のキャントン工場やスマーナ工場、テクニカルセンター(ミシガン州)において3Dプリンターでフェースシールドを生産する。生産数は約1000個/週。
トヨタ自動車米国や欧州で3Dプリンターを使ってフェースシールドを生産。国内でも貞宝工場において試作型を使った生産の準備を進めており、3Dプリンターの活用も検討している。欧州では3Dプリンターでハンズフリー式ドア開閉装置も生産している。
大阪大学大学院医学系研究科特任教授の中島清一氏らのグループが、市販のクリアファイルと3Dプリンターで造ったフレームから成るフェースシールドを開発。フレームの開発には、眼鏡フレームメーカーのシャルマン(福井県鯖江市)が協力した。フレームの3DデータはWebサイトで無償公開している。
人工呼吸器国立病院機構新潟病院など電源がなくても動かせる人工呼吸器を3Dプリンターで造るプロジェクト「COVIDVENTILATOR PROJECT」を発足。3Dデータや生産ガイドラインを公開し、3Dプリンターと材料(ABS樹脂)があれば誰でも造れるようにする。現時点では医療機器としての認証は得られておらず、早期の認証取得を目指す。
セアト(Seat)乗用車「Leon」の生産ラインを改造し、人工呼吸器を生産する。人工呼吸器に使う歯車を3Dプリンティングで造る。最終的なモデルを決定するまでに、13種類の試作品を開発した。現在、医療当局の承認を得るために試験中。
マスクイグアス3Dプリンターメーカーである米3Dシステムズ(3D Systems)と台湾XYZプリンティング(XYZprinting)の国内代理店。取り扱っている選択的レーザー焼結(SLS)方式の3Dプリンターを活用し、繰り返し利用できる樹脂製マスク(着用時に布やガーゼを当てる)を開発。3Dデータ(STLデータ)を自社サイトで無償公開
医療器具3D COVIDフランス・パリの医師であるロマン・コンサリ氏が創設したプロジェクト。公園の敷地に約60台の3Dプリンターを設置し、医療機関から要望のあった医療器具を造る。具体的にはバルブや人工呼吸器の部品、マスクなど。
ダイムラー(Daimler)乗用車部門において試作や少量生産に活用していた3Dプリンターで医療器具を生産する。医療機関からの要請があれば対応できるように準備を進めている。光造形(ステレオリソグラフィー、SLA)、SLS、熱溶解積層(FDM)、選択的レーザー溶融(SLM)など様々な方式の3Dプリンターを備えており、約15万個/年の樹脂/金属部品をこれまでに造ってきた。

 トヨタ自動車は2020年4月7日、同社の貞宝工場(愛知県豊田市)でフェースシールドを生産する方針を明らかにした。現在は試作型を使った生産の準備を進めており、まずは500~600個/週の規模で生産する予定だ。今後は3Dプリンターの活用も検討する。同工場は機械設備や金型などを造っており、もともと3Dプリンターを保有していた。既に同社の米国や欧州の工場では3Dプリンターを使ってフェースシールドを生産している。

トヨタ自動車の北米統括会社であるトヨタ・モーター・ノース・アメリカ(TMNA)の管轄する米国の工場は、3Dプリンターを使ってフェースシールドの生産を始めた。米国の医療従事者に提供する。(出所:TMNA)
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トヨタ自動車の北米統括会社であるトヨタ・モーター・ノース・アメリカ(TMNA)の管轄する米国の工場は、3Dプリンターを使ってフェースシールドの生産を始めた。米国の医療従事者に提供する。(出所:TMNA)
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トヨタ自動車の北米統括会社であるトヨタ・モーター・ノース・アメリカ(TMNA)の管轄する米国の工場は、3Dプリンターを使ってフェースシールドの生産を始めた。米国の医療従事者に提供する。(出所:TMNA)

 日産自動車も、米国のキャントン工場(ミシシッピ州)やスマーナ工場(テネシー州)などで3Dプリンターを使ってフェースシールドを生産する。生産数は約1000個/週。フェースシールドが不足している病院に寄贈するという。同社は同年3月20日以降、米国での車両生産を停止している。

キャントン工場やスマーナ工場などにおいて3Dプリンターで生産するフェースシールド。(出所:北米日産会社)
キャントン工場やスマーナ工場などにおいて3Dプリンターで生産するフェースシールド。(出所:北米日産会社)
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