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 新型コロナウイルスの感染拡大で製造業が混乱する中、大企業ではいち早く2020年4月16日に国内全拠点の原則休業を打ち出した東芝の方針は業界全体に衝撃を与えた。休業を決断した経緯や、技術者の在宅勤務に向けた施策、新卒採用への影響などについて、同社の新型コロナウイルス対策を主導する人事・総務部人事企画第一室ゼネラルマネジャーの三原隆正氏に聞いた。(聞き手は高野 敦=日経クロステック)

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休業を決めた経緯は?

三原 検討を始めたのは4月11日の夜だ。報道で感染爆発が話題になっており、1企業として「接触8割削減」に向けて何ができるかを考えた。

東芝人事・総務部人事企画第一室ゼネラルマネジャーの三原隆正氏
東芝人事・総務部人事企画第一室ゼネラルマネジャーの三原隆正氏
インタビューはビデオ会議で実施した。同社は2020年2月18日付で「総合COVID対策本部」を設置しており、三原氏は同本部において人事・総務部門の窓口として情報収集や方針決定に当たっている。(取材時の画面キャプチャー)

 翌12日に人事担当役員の豊原(正恭氏、代表執行役副社長)、さらに社長の車谷(暢昭氏、代表執行役社長兼最高経営責任者)と相談し、原案を作成した。13日の昼には各事業部門のトップに打診し、14日の朝に方向性が決まった。スピード感はあったと思う。

 国内全拠点を止めるとなると社内外への影響は確かに大きいが、夏期に予定していた休日を前倒しするだけなので、(21年3月期)上期や通期の業績にはあまり響かないと判断した。感染爆発になるかどうかを左右する(20年)4月後半というタイミングでやれたことが良かった。

取引先にはいつ伝えたのか。

三原 社内調整と並行して13~14日の時点で顧客やサプライヤーには伝えた。納品時期の変更などを相談した。逆に、社会インフラをはじめとする「止められないもの」については、休業期間である20日以降も継続を依頼した。

 休業期間中も稼働している事業としては、例えば電力会社向けの機器が挙げられる。発電所の定期検査は既にスケジュールが決まっており、それに合わせて機器を納めないと発電所が止まってしまう。他にも、エレベーターの法定点検などは安全のために実施しており、メンテナンス技術者による現地作業は継続している。

府中事業所に勤務する従業員5人の感染は休業の判断にどう影響したか。

三原 府中事業所の感染者は3月後半に社外で感染したとみられており、職場内感染ではなかったが、手を打たなければ(職場内感染が起きる)リスクは確かにあった。実際、4月17日にはグループ会社の加賀東芝エレクトロニクス(石川県能美市)などで複数の従業員の感染が確認されたが、これは職場内感染だった。

 休業に入った20日以降はグループ全体で出社比率が20%以下にとどまっており、職場内感染は起きていないので、効果は大きかったと考えている。

休業前はグループ全体の出社比率が60%程度だったと聞いている。在宅勤務への移行を進めていたと思うが、在宅勤務ができていた職場と難しかった職場はそれぞれどこか。

三原 本社や事務系職場は、休業の前でも出社比率は15%ぐらいにとどまっていた。一方、工場の生産現場はほぼ100%、開発・設計・生産に関わる技術者も80%ぐらいは出社している状況だった。技術者については、理屈では在宅勤務できる人たちもいたとは思うが、過去にそのような経験がなく対応が難しかった。

 大型連休明けは、本社や事務系では在宅勤務の比率を90%以上に引き上げる。生産現場は出社せざるを得ないので、グループ全体の出社比率という点では、技術者のところでどう下げていくかが課題になる。

テレワーク可能な技術系業務を見極める

技術者の在宅勤務をどう実現するのか。

三原 既に技術系の職場で議論を始めてもらっている。例えば、デザインレビューのような業務であれば、出社しなくてもチャットやビデオ会議でできるのではないか。一方、CADやCAEのような計算負荷の高い仕事が本当に在宅でできるのかという懸念もある。会社のサーバーにリモートアクセスできるようにしようとか、ワークステーション自体を自宅に持ち帰ろうとか、様々なアイデアが出ている。

 半導体工場でも、装置のメンテナンスの方法を変えようという話が出ている。これまではクリーンルームの中に技術者が入って目視で確認・点検していたが、カメラの映像を自宅で見ながらできないかという話もしている。

 ただし、多くの企業がそのようなことを始めると、今度は世の中の通信インフラが持ちこたえられるのかという話が出てくるだろう。在宅勤務でビデオ会議をしているときに、子供のオンライン授業が始まると、ビデオ会議の品質が低下するということが実際に起きている。企業の取り組みだけではなく、世の中のインフラが変わっていかないと、技術者の本格的な在宅勤務は難しいかもしれない。

大型連休明けはどうなるのか。

三原 今、まさに議論している。まず5月6日までの緊急事態宣言が延長されるかどうかで大きく変わる。もし緊急事態宣言が延長されたとしても、国の基本的対処方針によれば、職場への出勤は外出自粛の対象ではないので、なるべく在宅勤務比率を高めながら業務を再開していくことになるだろう。

 先ほども述べた通り、事務や営業などの職種は在宅勤務比率を90%以上に高める。基礎研究も、材料や実験が関わる分野以外は在宅勤務が可能ではないか。生産現場は難しいので感染対策を徹底する。具体的には、「出勤や休憩などの時間帯をずらす」「マスクの常時着用」「社会的距離を確保できる人員配置」といった対策だ。マスクがない従業員には会社が支給する。

 今の悩みは、消毒用のアルコールが不足していること。市場にほとんど出回っていない。ただし、高濃度エタノールを自分たちで希釈して消毒に使えそうだということが分かってきた。高濃度エタノールは危険物なので取り扱いには注意が必要だが、保健所などとも相談しながら実現性を探りたい。