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 「コロナショック」で自動車需要が激減する中、自動車メーカーの優勝劣敗が鮮明になる。強いメーカーがさらに強くなり、弱いメーカーは再編対象になるだろう。中国メーカーが、一足早く経済活動を再開した自国市場をてこに世界で存在感を高める可能性がある。塗り替わる勢力図を占う。

 「コロナ危機が続くほど、勝ち組、負け組が鮮明になる」――。元日産自動車副最高執行責任者(副COO)で、日本電産社長COOの関潤氏は、自動車業界の覇権争いの行方をこう見通す。

 “負け組”の筆頭が、関氏の古巣である日産だ(図1)。前期(2020年3月期)が営業赤字になる見通しを発表した。加えて今期(21年3月期)も赤字の可能性がある。手元資金が少なく、世界の競争から脱落しそうだ。関氏は胸中に何を思うのか。

図1 日産の新興国戦略車
図1 日産の新興国戦略車
低価格ブランド「Datsun」を立ち上げたものの販売は伸び悩んだ。(出所:日産)
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 日産と同様にコロナショックの“負け組”との見方が強まるのが、フランス・ルノー(Renault)と米フォード(Ford Motor)である。

 ルノーは主力の欧州やロシア市場が厳しい。約50億ユーロ(約5850億円、1ユーロ=117円換算)の政府保証付き融資を受けたと一部で報じられた。「再国有化」すら取り沙汰される。フォードの台所事情も似たようなもの。主力の北米市場の落ち込みに加えて、資金繰りへの懸念がぬぐえない。

 一方で“勝ち組”の代表は、トヨタ自動車である。コロナショックは、長年続いたドイツ・フォルクスワーゲン(Volkswagen、VW)との覇権争いから一歩抜け出す好機になる。

 複数の自動車アナリストが、トヨタの今期(21年3月期)の営業利益は半減近くになるかもしれないが、1兆円を上回ると予測する。世界の自動車メーカーの中で相対的に優位に立つとの見方が多い。約1年分の固定費に相当する手元資金もあり、盤石である。

 長年トヨタと覇を競うVWは、トヨタほどではないが、新型コロナ終息後に十分な余力を残す“勝ち組”との見方が多かった。トヨタとVWの競争は、コロナショック後もしばらくは続きそうだ。

 VWは今期、世界販売が2割減ったとしても、それなりの黒字を確保しそうである。お膝元の欧州市場は苦しいが、もう1つの軸足を置く中国市場がいち早く経済活動を再開することが大きい。

 VWは危機を好機と捉えて動くしたたかさも見せる。「中国市場で早くも販売攻勢に出ており、一気に他社のシェアを奪おうとする機運になっている」(ナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹氏)。危機で簡単に屈しない「ゲルマン魂」である。

 “負け組”の3社をはじめに体力のない自動車メーカーがコロナショックで脱落しそうな中、トヨタとVWの競争力は相対的に上がるはずだ。その覇権争いの行方は、五分五分に思える。

 欧州に比べて販売への影響が少ない日本や東南アジア諸国連合(ASEAN)に強いトヨタに対し、いち早く回復した世界最大市場である中国でシェア首位のVW。恐らく、コロナショック後の「ニューノーマル(新しい日常)」にいち早く対応できた方が勝者になる。

 「新型コロナ危機で、社会や個人の価値観が変わっていく」――。デンソー社長の有馬浩二氏は、今後の自動車技術の開発に変化が生じるとみる。「“3密”を避けて、スマートシティーではなく田舎に住む人が増えるかもしれない。気候変動を抑える電動化は加速するのではないか」と予測する。

 「コロナ前」に脚光を浴びていたシェアサービスも変わりそうだ。人の移動が減り続けており、シェア需要が激減している。ライドシェア大手の米ウーバー・テクノロジーズ(Uber Technologies)は売り上げの急減に直面し、数千人規模のリストラを検討中と報じられる。逆に宅配需要の増加で、モノの移動が激増している(図2)。

図2 米国で宅配用の自動運転車の開発が進む
図2 米国で宅配用の自動運転車の開発が進む
米新興企業のニューロが開発する車両。(出所:ニューロ)
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 「コロナ前」には「CASE(コネクテッド・自動運転・シェア・電動化)」に莫大な投資をしてきた自動車メーカー。「コロナ後」はCASEの中で浮き沈みが鮮明になりそうで、開発の選択と集中がとりわけ重要になる。