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 新型コロナウイルスの感染拡大によって製造業は抜本的な事業変革を迫られる。M&A(合併・買収)を伴う業界再編が巻き起こり、終息後の「アフターコロナ」には業界の勢力図が様変わりしている可能性もある。2020年3月に、大手自動車メーカーの経営コンサルティングを担うドリームインキュベータで執行役員に就いた田代雅明氏に展望を聞いた。

(聞き手は窪野 薫=日経クロステック)

田代 雅明(たしろ・まさあき)。東京工業大学大学院社会理工学研究科社会工学専攻修了後、ドリームインキュベータ(DI)に入社。入社後は10年以上にわたり、自動車、通信、IT(情報技術)、エレクトロニクス、商社などの業界において、成長戦略立案や、業界を横断した新規事業・新組織の立ち上げに従事。2020年3月から同社執行役員。(撮影:日経クロステック、2018年12月)
田代 雅明(たしろ・まさあき)。東京工業大学大学院社会理工学研究科社会工学専攻修了後、ドリームインキュベータ(DI)に入社。入社後は10年以上にわたり、自動車、通信、IT(情報技術)、エレクトロニクス、商社などの業界において、成長戦略立案や、業界を横断した新規事業・新組織の立ち上げに従事。2020年3月から同社執行役員。(撮影:日経クロステック、2018年12月)
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アフターコロナに向けてM&Aや業界グループの再編が加速する可能性は。

 製造業界の全体としてみれば、M&Aを伴う業界再編が加速する可能性は高い。それには大きく2通りのシナリオがありそうだ。

 まずは、海外メーカーに比べて高い競争力を誇る日本の自動車メーカーや工作機械メーカーが、戦略的にM&Aを進めるシナリオが考えられる。モデルベース開発(Model base Development;MBD)やCAE(Computer Aided Engineering)を活用した研究開発のデジタル化をはじめ、サプライチェーンや生産といった領域へのデジタル技術の導入など、アフターコロナを見据えて取り組むべき課題は多い。そのため、デジタル化に関連する技術を持つ企業をグループ内に確保し、効率よく事業変革を進めようとする流れが加速する。

 注目したいのはもう一つのシナリオだ。それは、新型コロナによる業績悪化が引き金となる。影響が長引けば、資金繰りは苦しくなり経営が立ちいかなくなる企業も出てくるだろう。もしも、その企業が重要な技術を握り、サプライチェーンの中枢にいたとすると、そういう企業を単独で経営させておくのは危険と判断した大企業では、戦略的にグループの中に組み込もうという意思が働く。いわば救済措置のようなものだ。

 ただ、どんな大企業でもすべての研究開発リソースや技術資産をグループ内に抱え込むのは難しい。買収だけではなく、売却や分社化などの動きも多く出てきそうだ。企業グループの中に入れておくのか、それとも外に出すのか。新型コロナを機に、より鮮明になる。

 実際に、次の一手を打つべく準備を進める大企業がある。2020年3月、トヨタ自動車は1兆円規模のコミットメントライン(融資枠)の設定をメガバンクに要請した。同年4月には、日産自動車が融資枠の設定を含む計5000億円規模の融資をメガバンクなどに申請している。

 両社の業績には差があるが、共通するのは新型コロナを乗り切る資金が潤沢にあるわけではないということ。そのために、得た資金を使って新たな企業を買収するだけではなく、売却による新たな資金の獲得が不可欠だ。これらを同時並行で進めなくてはならない。

アフターコロナでは自動車技術にも新たな動きが出てきそうだ。

 自動車の新技術としてはCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)が注目を集めている。しかし、新型コロナの影響によってこれまで同様のスピード感では開発は進みそうにない。それぞれの技術によって、適用が早く進むものと遅れるもので明暗が分かれそうだ。