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 中国の湖北省武漢市を発生源とする新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的な流行)は、世界の電子機器産業の足元を大きく揺さぶった。スマートフォン、パソコンなど電子機器の製造を支えるEMS(電子機器の受託製造サービス)/ODM(指定された製品の設計・製造サービス)の工場を長期間操業停止に追い込み、サプライチェーンを寸断した。この災禍は、米中貿易戦争で拍車がかかっていた「チャイナプラスワン」、つまり中国以外の国にも工場を設けてサプライチェーンの寸断リスクを分散する戦略をさらに加速させるとみられている。今、電子機器の製造の現場では何が起きているのか。日本の大手通信事業者などを顧客に持つ台湾のEMS/ODMであるVISION AUTOMOBILE ELECTRONICS INDUSTRIALのVice President, Marketing & RD DivisionのChung-Hsiao Lo(愛称:Paul)氏に、新型コロナのEMS/ODM業界へのインパクトを聞いた。(聞き手:内田 泰=日経クロステック/日経エレクトロニクス)

台湾VISION AUTOMOBILE ELECTRONICS INDUSTRIALのVice President, Marketing & RD DivisionのChung-Hsiao Lo(愛称:Paul)氏
台湾VISION AUTOMOBILE ELECTRONICS INDUSTRIALのVice President, Marketing & RD DivisionのChung-Hsiao Lo(愛称:Paul)氏
(写真:VISION AUTOMOBILE ELECTRONICS INDUSTRIAL)
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最初にVISION社の事業内容などについて概要を教えてほしい。

Paul 弊社は台湾南部の古都である台南市に拠点を持つEMS/ODMだ。工場も台南にある。台湾以外に拠点を持っていない。スマートハウス向けのIoTデバイスやスマートオートモーティブ、つまり自動車の安全性やセキュリティーを高めるためのセンサー類や機器の設計・製造を担当している。

 顧客は日本の大手通信事業者のほか、欧米のホームセキュリティー企業や台湾、東南アジア、オーストラリアの自動車関連企業などだ。

新型コロナでどのような影響を受けたのか。

Paul さまざまな要素がある。(1)それぞれの顧客の国内需要が減退し、経済面で悪影響が出ている。(2)製造に必要な部品の供給に一部遅れが出ている。(3)製品が完成してもそれを顧客に輸送する航空便や船便の本数が減っていて大きな調整が必要になっている。さらに、(4)顧客の支払いのタイミングにも遅れが出ていて、金融取引に無視できない影響が出ている。

価格が2~3倍に高騰する部品も

部品価格に影響は出ているのか。

Paul 価格が不安定になっている。部品サプライヤーの納期遅れなどの影響で、「スポット価格」が2~3倍に跳ね上がっている部品もある。抵抗やトランジスタなどのディスクリート部品やICといった類いの製品だ。

 EMS/ODMは、製品仕様が決まったら顧客が指定した部品を使う必要がある。そのために、通常は部品を正規のルートから大量に購入するが、部品の供給が不足している場合はオープンマーケット、例えば電子部品の電子商取引サイトである「Digi-key」などで別途調達する必要がある。

 オープンマーケットでは、ただでさえ正規より価格が高いのに、新型コロナの影響で需要が集中しているため価格がさらに上がっている。しかし、EMS/ODMはこうした対応をしないと納期に遅れが生じてしまう。「パーツがないから作れない」という言い訳は許されない。スポットでも部品を必死に探して対応する。それが我々の生命線だ。

VISION社では新型コロナの影響で工場の稼働が停止したり、完成品の納期が遅れたりすることはあったのか。

Paul 弊社の工場は台南のみにあり、台湾内のローカルサプライが中心なので、製造に目立った遅れは出ていない。工場の停止は1日もなく、生産ラインはフル稼働状態にある。

VISION AUTOMOBILE ELECTRONICS INDUSTRIALの本社と概要
VISION AUTOMOBILE ELECTRONICS INDUSTRIALの本社と概要
(写真:VISION AUTOMOBILE ELECTRONICS INDUSTRIAL)
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スポットで価格が高い部品を購入した場合、そのコスト差は誰が負担するのか。

Paul 台湾のEMS/ODMの動きは速かった。供給不足に陥りそうな部品は、早い段階で多めに購入したので、スポット購入を最小限に抑えられた。

 もちろん、スポット購入をする場合は顧客に相談する。顧客が多少の納期遅れを許せば無理して高い部品を使う必要がない。一方、「納期を遅らせたくないので買ってください。コスト増の分はうちで支払う」と言ってくれた顧客もいる。こうした交渉では、結局は人と人との関係性が重要になる。