2019年末に中国で発生したとみられる新型コロナウイルス感染症は瞬く間に世界に広がり、人々の生活と産業に大きな影響を及ぼしている。発生直後の20年2月ごろは、電子産業の製造の中心であった中国の生産ライン稼働への影響やサプライチェーンの混乱からくる供給低下に、日本および世界の関心が集まっていた。特に、ディスプレー産業においては、新型コロナが拡大しつつあった中国武漢に、BOE(京東方科技集団)、CSOT(華星光電)、天馬微電子といった中国ディスプレー業界の3大メーカーが最新鋭の工場を稼働し始めるタイミングであったため、その影響度にひときわ関心が集まった(図1)。
結果的には、これらのパネル工場は、自動化が進む最新鋭の工場であり稼働率の低下はあるものの、生産停止などの大きな影響はなかった。一方、人手を必要とするディスプレーモジュールやスマホ、ノートブック、テレビなどの組み立ての工場では大きな影響が出ていた。また、武漢のディスプレー3社は新設ラインの立ち上げ途上でもあり、市場への直接のインパクトは少なかった。
このような状況の中で、筆者が注目したのは、物の動きではなく情報の動きである。1月23日の武漢封鎖に続き、中国全土に感染が拡大した2月の時期、中国全土で人の動きは厳しく制限され、業界関係者が集まる会議などは全くできない状況になった。しかし、ネットを使い業界サプライチェーンに関わる上流から下流の関係企業が集まり、現状報告と対応策などを議論するネット会議が、早くも2月から開催され業界一般にも公開されていた。会議のテーマはパネル製造や関連部材への影響などをシェアするだけでなく、将来に向けたさまざまな技術開発テーマに対するディスカッションもあり、感染拡大の状況を感じさせない議論がネット上で行われていた。