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サプライチェーン再編の駆け引きと大きく変わる産業風景

 今回の事案で、産業サプライチェーンの重要な部分が中国に集中するリスクも浮かび上がり、サプライチェーンを日本国内に戻す動きやアジアの各地に分散させる検討も始まっている。しかし、サプライチェーンの再構築は一朝一夕にはできず、世界的に混乱している現状では復興の先頭を走る中国に当面は頼るほかない。寸断されたサプライチェーンを修復し、中国をベースとした生産態勢を元に戻すために日本企業各社も奮闘し、その復旧作業と並行して中長期的なサプライチェーンの見直しも進められている。

 一方で、サプライチェーンの維持を死守する動きも中国国内では出ている。それは、単に既存のサプライチェーンを守ることではなく、中国各地に完成しつつある製造クラスターを活用してリスクを分散させる方法である。例えば、今回の事案の発祥地とみられる武漢はまさにこれから巨大な産業クラスターとして構築を急ぐ地域であるが、北京、上海、深センを中心とした沿岸地区には、以前から巨大な産業クラスターができあがっており、内陸の成都でも急速な産業クラスターの形成が進んでいる。さらには内陸の各地にも次々と新たな産業クラスターの構築が進められている。新型コロナ後の産業態勢を見据えた中国国務院からの発言には、これらの各地に分散する産業クラスター間でうまくリスク分散を行い、世界のサプライチェーン再構築の動きを中国内に引き留めるという指示も出されている(図2)。

図2 中国のディスプレー産業クラスター配置
図2 中国のディスプレー産業クラスター配置
中国内でパネル生産ラインを持つ省級地域は北京、上海、河北、広東、深セン、湖北、江蘇、安徽、四川、重慶、陝西、内モンゴル、江西、福建の14地域になり、計画中および海外企業による投資も含めて、60本近い生産ラインがある。最新鋭のFlexible OLEDのラインも立ち上がりつつある。中国光学光電子行業協会液晶分会の梁新清常務副理事長/秘書長がDIC(Display Innovation China)北京サミット2019の際に使用した資料を元に加筆。なお2020年7月に上海で予定されているDIC2020は、新型コロナウイルスによるイベント活動の自粛が解除され、開催されることが5月10日に通知された
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 新型コロナ禍を巡っては、中国と欧米諸国との政治的な駆け引きも続いている。新型コロナ禍が先行した中国は、自粛モードの中でも着実に力を蓄えていた。4月8日には武漢の封鎖が解かれ、大都市での人々の自由な生活も戻り始めている。大規模イベントも政府によって禁止されていたが、7月から徐々に解禁されることが決まり、7月に上海で予定されながら凍結されていたDIC2020の開催も5月10日に発表された。新型コロナウイルスの感染拡大から復興に転じた中国が世界に先駆けて本格的な活動を再開することで、新型コロナ後の産業の主導権がますます中国に移っていくことになりそうだ。同時に、新型コロナ後の世界に向けたサプライチェーンの駆け引きや政治の駆け引きが激しくなることも予想される。

注)新型コロナウイルスに関連する内容は、本稿執筆時点の5月中旬の情報であり、今後変化していく可能性があります。あらかじめご了承ください。