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 2020年5月25日、緊急事態宣言が全面的に解除された。だが、新型コロナウイルスの発生前に戻ることはなく、アフターコロナ(AC:After Corona)で、社会の価値観や働き方が大きく変わるだろう。

 アフターコロナ時代には、社会の中で一定の頻度で新型コロナのような感染症が発生し、その都度、本人もしくはその周辺の人たちが2週間(あるいはそれ以上)の間、半ば強制的に業務から外れるという事態が起こり得る。

 従って、「この事務処理はAさんしか分からないよ」「この機械の部品交換はBさんでないとできないよ」といった、特定の個人にしか対応できない業務は、事業推進の大きな障害となる。AさんやBさんといった特定の個人がいなければ、業務が止まってしまうからだ。

 製造業に従事する人には当たり前の話かもしれない。しかし現実には、「潜在的なリスク」とは認識はしているものの、今すぐに対応しなければならない「優先順位の高い問題」だとは認識されていない

個人依存の業務は「明確な事業リスク」に

 「分かっているのであれば、どうしてやらないのか?」となるわけだが、現場からは「(忙しくて)教育をしている時間がない」「教育の受け皿(技能伝承の相手)がない」「ノウハウが多くて教育が難しい」といった言葉が返ってくる。しかし、いずれも言い訳だろう。なぜなら、日常の生産ですぐに出荷に直結するような作業で欠員が出た場合には、最優先で教育が行われるからだ。「できない言い訳」など聞こえてこない。

(出所:筆者)
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(出所:筆者)

 現場の本音は「必要なことだとは分かっているが、今はAさんやBさんが在籍してくれているから後回しだ」というものだ。これはすなわち、個人依存の解消に向けた教育は後回しでもやむを得ないという意味に他ならない。

 確かに、特定の個人にしか対応できない業務を抱える「潜在的なリスク」の大きさを見積もることは難しい。限られた時間と人員で業務を回している現場の管理者にとって、優先順位をつけるための情報が見えないのだから、後回しにしたい気持ちは分かる。しかし、忙しさや限られた人員を言い訳に使っているという側面も否めないだろう。

 だが、もう言い訳はできない。新型コロナ騒動により、特定の個人にしか対応できない業務は「明確な事業リスク」であることが分かったからだ。アフターコロナ時代には、「潜在的なリスク」というこれまでの考え方は捨て去るべきだ。つまり、事業継続を念頭に置いた重要な経営課題と位置付け、事業計画の中で特定の個人にしか対応できない業務を解消すべきである。しかし、多くの制約条件がある中で日常の業務を推進している現場にいる管理者に、「とりあえず、これもやっておいてね」と丸投げするのは経営の怠慢である。経営側はこの問題に対する認識レベルを上げなければならない。

(出所:日経クロステック)
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(出所:日経クロステック)

現場に丸投げする経営者は失格

 特定の個人にしかできない業務が現場に存在し、それが経営リスクであると経営側が認識しておきながら、現場に対応を丸投げする。これは、「目の前の火を消しながら、後ろで走っている放火魔を捕まえろ」と言うようなものだ。現場は、今現在、目の前に起こっている問題を解決することが最優先であり、より大きな問題の解決に対しては何らかの組織的な助力が必要である。それが、すなわち事業継続を脅かす経営課題と位置付け、会社として対応すべき課題に格上げするということだ。

[1]「何とかしろ」と現場に丸投げしない

 確かに、業務のスキル移転や技能伝承など実務上の実行責任は現場にある。だが、そのために必要な教育訓練行為には、「教える人」と「教えられる人」の双方の労働時間を大なり小なり割く必要がある。そのため、現場の生産性を一時的に低下させることになる。

 「生産性は落とすな、しかし教育は確実にせよ」というのは、聞こえはいいが、日々、限界ギリギリで走っている現場には、「火を消しながら放火魔を捕まえる」ことに等しい要求だ。生産性を絶対的な評価指標に置かれた工場管理者が、自分の評価を下げてまで、「別に今しなくても何とかなる問題」を解決しようと思うだろうか。

 経営として取り組むべき課題に位置付けるならば、当然ながら職場や管理者の評価にも織り込むべきであり、その活動に必要な経営資源の投入も考えなければならない。その上で、現場に実行を求めるのが「丸投げしない」ということである。

 今、現場は、残念なことだが稼働が大きく落ち込んでいる。ということは、経営資源の投入も、繁忙期に比べて投入しやすい環境にあるだろう。今こそ、この問題に取り組むチャンスだと考えるべきだ。