「まさに異例の事態だ。あのトヨタが特許を開放するとは」──。こう驚くのは日本知財標準事務所の証券アナリスト、三浦毅司氏だ。2020年4月3日に始まった、新型コロナウイルス対策の技術を開発する企業や研究機関に対して特許など知的財産の無償開放を呼びかけるプロジェクト「知的財産に関する新型コロナウイルス感染症対策支援宣言」(以下「知財宣言」)にトヨタ自動車やソニーなど日本を代表する企業61社(20年5月28日時点)が集結し、特許の無償開放を進めている。
同プロジェクトの考案者である京都大学発スタートアップ企業、ジェノコンシェルジュ京都の山崎寿郎CEO(最高経営責任者)は、「20年6月末までに参画企業100社を目指す」と意気込む(図1)。集まった特許を使って、具体的な新型コロナウイルス対策にどう生かしていくのかが次の焦点だ。
「2人で暴走しませんか」。プロジェクトの始まりは日本でも新型コロナウイルス感染拡大が深刻化していた20年4月2日、山崎氏が対話アプリ「LINE」で送った一通のメッセージだった。宛先はキヤノンの知的財産法務本部で副本部長を務める真竹秀樹氏だ。山崎氏が特許開放のアイデアを伝えると、企業として何かできないか考えていた真竹氏は即座に賛同。互いの取引先などに紹介することで参画企業の輪が広がっていったという。
「シャープのマスク」でひらめき、知財界のつながりで参画企業続々
山崎氏はジェノコンシェルジュ京都を立ち上げる以前、日立製作所の知的財産本部で知財ビジネス本部長などを歴任した経験を持つ。知財ビジネスの経験から、企業が迅速に新型コロナウイルス対策を進めるには、特許開放が効果的である点に気づいていた。プロジェクト立ち上げの必要性に駆られたのは、シャープがマスク生産に乗り出す報道に触れたときだったという(図2)。