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 新型コロナウイルスの影響で快進撃を続けてきたダイキン工業が足止めを食らった。リーマン・ショック後の2010年度から続けてきた10期連続の増収・増益と7期連続の過去最高売上高(業績)が幻となった。この危機に同社は6つ緊急プロジェクトを立ち上げ、新型コロナウイルス問題の収束後に「ライバルに先んじて『V』字形回復を狙う」と同社代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)の十河政則氏は意気込む(聞き手は近岡 裕=日経クロステック)。

9月まで影響があるとみて計画立案

 新型コロナウイルス発生直後の2020年1月、私は自ら本部長となって対策本部を立ち上げた。刻々と変わる状況変化の情報を的確に収集し、打つべき手を素早く打った。結果、2020年3月期(2019年度)決算(日本基準)は、当初はもっと大きな負の影響を受けるかと思っていたが、新型コロナウイルスの影響を極小化できた。当社はこれまでもバブル崩壊やリーマン・ショックなど、いろいろな難局を乗り越えてきた。そうした経験によって「抵抗力」を身に付けたのだと感じている。

ダイキン工業社長兼CEOの十河政則氏
ダイキン工業社長兼CEOの十河政則氏
2018年10月に撮影した。(写真:山本 尚侍)
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 2019年度の売上高は2.8%増の2兆5503億円、営業利益は3.9%減の2655億円だった。新型コロナウイルスの影響で売り上げは450億円、営業利益は220億円減った。これがなければ、売上高は2兆5953億円、営業利益は2875億円となり、「10期連続の増収・増益と7期連続の最高業績」を達成できていた。

 問題は2020年度の業績だ。現時点では売上高は前期比9%減の2兆3300億円、営業利益は44%減の1500億円という計画を立てている。新型コロナウイルス問題の収束がいつになるか、正直見通しが立たない。だが、成り行きに任せるのは経営ではないと私は思う。不透明ながらも今ある現実を直視した上で、定めるべき目標は定め、決めるべきことを具体化して実行に移していくのが経営だ。

ダイキン工業の売上高と営業利益
ダイキン工業の売上高と営業利益
2019年度は新型コロナウイルスの影響はあったものの増収を確保した。2020年度は売り上げが9%、営業利益が44%減る見込み。(出所:日経クロステック)
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 当社は新型コロナウイルスの影響がどこまで続くのか、2020年6月(第1四半期)、同年9月(第2四半期)、同年12月(第3四半期)、2021年3月(第4四半期)の4パターンを想定し、対策を具体的に詰めてきた。それを踏まえ、それぞれの事業や地域の現実を加味した現時点の見込みで計画を立てた。結果、上期(9月)まで影響が出るパターンに近い実行計画となった。

 ただし、状況は刻一刻と変化するため、その状況変化を的確に捉えて打つべき手を先手先手で打ちながら柔軟に対応していく。具体的には1カ月、2カ月といった単位で状況を見ながら実行計画を見直していく考えだ。

守りで43、攻めで31、体質強化で17テーマを策定

 新型コロナウイルス危機に立ち向かうために打ち出した施策は「守り」と「攻め」、「体質強化・体質改革」の3つだ。守りの施策では、固定費の徹底的な圧縮や、販売店や取引先への支援など43テーマを設定した。第1四半期はこの守りの施策が中心にならざるを得ないと思う。

 攻めの施策では、インターネットを活用した営業強化や、消費者の意識や行動の変化を見据えた打ち手の展開など31テーマを定めた。これは、新型コロナ問題が収束したときに、ライバル(競合企業)に先んじて一気に事業を回復させる、すなわち「V」字形回復を狙ったものだ。

 リーマン・ショックの時もそうだったが、危機の時は体質強化を図る好機でもある。そこで、体質強化・体質改革の施策では、身軽で強靱(きょうじん)な固定費構造の確立や、人工知能(AI)やIoT(Internet of Things)を活用した業務プロセスの変革による効率化など17テーマを設定。これにより、ピンチをチャンスに変え、競争力を高める。ここが、強い企業とそうではない企業が分かれる勝負どころだ。2020年度は各社の競争力が試される年だと思って経営の舵(かじ)を取っている。

6つの緊急プロジェクトを立ち上げ

重要経営課題として取り組む6つの緊急プロジェクト
重要経営課題として取り組む6つの緊急プロジェクト
(出所:日経クロステック)
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 これら3つの施策と併せて、グループ全体に横串で進めていく「緊急プロジェクト」を6つ立ち上げた。

[1]全グローバルでの調達や生産、在庫、物流の構えの強化

[2]需要の減退・縮小と世の中の変化の中でライバルに打ち勝ち、価格を維持しながらシェアアップを実現するための販売力・営業力の強化

[3]空気質・換気への意識の高まりにより新たに生まれる需要を徹底的に刈り取るための、全世界横串での空気・換気商品の拡販、差異化新商品の開発・投入、ソリューションメニューの具体化

[4]固定費の抜本的削減(損益分岐点・売上高固定費比率の抜本的低減)

[5]事業環境の先行きが従来になく不透明な中での大型投資(設備投資、投融資)の優先順位付け

[6]グループ全体の資金需要をきめ細かく把握した資金調達の構え

 以上を瞬発力を上げて実行していく考えだ。そして、これらを含めて今後の当社の成長にとって特に重要な取り組みは3つある。

 1つめは、緊急プロジェクト[1]の全グローバルでの調達、生産、在庫、物流の構えの強化だ。グローバル5極(アジア、欧州、北米、中国、日本)における調達から生産、在庫、物流と、販売に至るまでの情報を瞬時に把握する。それぞれの地域で需要の変動があり、物流と生産については規制の状況(外出を禁じる規制など)が変わる。ある所では販売が増え、ある所では販売が減る。これらを機敏に見ながら需要の増加に応え、販売機会の喪失を回避する。一方で過剰在庫にならないようにする。このように全体最適の観点でスピーディーに動ける体制を構築し、実行に移していきたい。

 新型コロナウイルスによって需要は減退し、全体としては市場が縮小すると私は思う。その中では、いかにライバルに打ち勝ってシェアを上げられるかが鍵を握る。強い販売網を生かして販売網の支援を一層強化するとともに、各地域で市場やライバルの動向、販売網の状況を顧客密着でつかみ、ライバルを上回る施策を実行していく。

 在宅勤務の拡大で浸透が加速しているテレワークやイーコマースを活用した新たな販売施策にも今、取り組んでいる。その施策をもう一段進めることで拡販にもつなげていきたい。