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 新型コロナウイルスの影響で中止となった世界最大級のモバイル展示会「MWC20バルセロナ」。もし予定通り2020年2月末に開催されていたら、「Open RAN」が大きな注目を集めていたのではないだろうか。MWCは例年、1〜2年先の通信業界のトレンドを探るには絶好の場だ。欧州の新型コロナウイルス感染爆発を見ると今年の開催はあり得なかったとは思うものの、MWCがキャンセルされたことによる業界全体の損失は改めて大きいと感じる。

今年(2020年)のモバイル業界最大級の展示会「MWC20バルセロナ」は中止の憂き目に遭った。写真は19年に開催された会場の様子(撮影:日経クロステック)
今年(2020年)のモバイル業界最大級の展示会「MWC20バルセロナ」は中止の憂き目に遭った。写真は19年に開催された会場の様子(撮影:日経クロステック)

ベンダーロックインを回避するOpen RAN

 Open RANとは、携帯電話ネットワークの基地局など無線アクセスネットワーク(Radio Access Network、RAN)を構築する際に、複数ベンダーの機器を組み合わせて運用できるようにするオープン仕様のネットワークのことだ。ここ数年、世界の通信事業者の間で注目を集めている。

 4Gや5Gといった通信方式は、携帯電話の標準化団体「3GPP」で標準仕様が決められている。しかし細部に至るまで仕様が決まっているわけではない。例えば基地局を構成するBBU(Baseband Unit)とRRH(Remote Radio Head)はこれまで複数ベンダーで相互運用することが難しく、同一ベンダーの機器でそろえる必要があった。

 その結果、携帯電話事業者のネットワークコストの7割近くを占めると言われる基地局市場は中国ファーウェイ(華為技術)、スウェーデン・エリクソン(Ericsson)、フィンランド・ノキア(Nokia)といった大手ベンダーが8割近いシェアを握る寡占市場となってしまった。「大手ベンダーによる囲い込みを避けて、多様な選択肢を確保したい」(国内携帯電話事業者幹部)というのが世界の通信事業者の共通した思いだ。Open RANを実現すれば、適材適所でベンダーの機器を組み合わせてコスト削減につなげられる。部分的に一般的なサーバー上でソフトウエアを使った基地局を活用することも可能になる。こうした背景がOpen RANが注目を集めている理由になっている。

 そんなOpen RAN関連の注目すべき動きが20年2月末以降に加速し始めている。まずはOpen RAN関連の2大勢力の連携だ。

 米AT&Tや中国移動、NTTドコモなど世界の大手通信事業者が中心となって18年に立ち上げた業界団体「O-RAN Alliance」と、米フェイスブック(Facebook)が中心となり16年に発足した、オープンソースや仮想化技術などを活用することで通信機器のコスト抑制などを狙う「Telecom Infra Project(TIP)」は20年2月末、Open RANの推進に向けて連携していくと発表した。

 O-RAN Allianceは発足から2年が経過し、参画企業は100を超える一大勢力となっている。一方のTIPも500以上の企業や団体を集めており、無線アクセスネットワークから伝送路、コアネットワークまで、専用機器で構成してきた装置を汎用サーバーなどでも構築できるようオープンな仕様などを定めている。

O-RAN AllianceはMWCで披露する予定だったデモをWeb上で紹介している(出所:O-RAN Alliance)
O-RAN AllianceはMWCで披露する予定だったデモをWeb上で紹介している(出所:O-RAN Alliance)

 O-RAN Allianceは20年4月末、今年のMWCで披露する予定だったOpen RAN関連のデモをWebサイト上で一挙に公開した。ここではAT&TやNTTドコモ、中国移動などが、O-RAN Allianceの仕様に基づいて複数のベンダー機器を用いて基地局を動作させたり、ホワイトボックスを使った基地局などを実現したりしている様子を紹介している。O-RAN Allianceの仕様に準拠の機器も登場してきており、Open RANがだいぶ形になってきたことを印象付ける。

 TIPも今年のMWCで会場中心部に大きなブースを構える予定だった。TIPはMWCに合わせて20年2月末、O-RAN Allianceの仕様に基づいて複数ベンダー機器を相互運用できるRRHのレファレンスデザインを作るプロジェクト「Evenstar RRH Program」を立ち上げると発表した。このプロジェクトには英ボーダフォン(Vodafone)や独ドイツテレコム(Deutsche Telekom)といった世界の主要通信事業者、米マベニア(Mavenir)、米パラレルワイヤレス(Parallel Wireless)などの新興ベンダーが参画する。

 仮にMWCが今年開催されていたら、Open RANに大きな注目が集まり、Open RANを推進する機運も一層高まっていたに違いないと感じる。