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 超低遅延や高信頼性、用途ごとにカスタマイズしたネットワークを提供する「ネットワークスライシング」など、真の5G(第5世代移動通信システム)能力を発揮できる「SA(Stand Alone)」導入ロードマップが見えてきた。ソフトバンクは2021年度中に「SA」を開始する計画を発表。22年度から法人向けに、ネットワークスライシングを活用した5Gサービスを提供していく方針も示した。SAはいずれどの通信事業者も目指す方向だ。日本が世界で再び巻き返す最後のチャンスになる。

ソフトバンクがSA導入をいち早く発表

 「20年度末までに5G基地局を1万局に増やし、21年度中にSAを追加していく。産業用途に低遅延や高信頼性、多数同時接続といった機能を提供していきたい」。ソフトバンクのモバイルネットワーク本部の関和智弘本部長は、同社の5G戦略をこのように明かす。

 20年5月20日に開催した同社の法人向け5G発表会では、22年度からSAやネットワークスライシングを活用し、企業の用途ごとにカスタマイズした「プライベート5G」と呼ぶ5Gサービスを提供していく方針も示した。

ソフトバンクは21年度に5G SAを導入する計画を明らかにした
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ソフトバンクは21年度に5G SAを導入する計画を明らかにした
(出所:ソフトバンク)

 NTTドコモやKDDI、ソフトバンクの携帯大手3社が20年3月末に一斉に開始した5Gサービスは、まだ高速・大容量など5Gの一部の機能を実現したにすぎない。現在、世界で商用化されている5Gサービスは、NSA(Non-Stand Alone)と呼ばれる仕様に基づいており、5G単独では動作せず、4Gネットワークとの連携が必須になる。コアネットワークは4GのEPC(Evolved Packet Core)を流用し制御信号は4Gネットワークでやりとりする。

 NSAは5Gの特徴の一つである高速・大容量通信を実現できる。しかし、産業向けに期待されているネットワークスライシングなどは提供できない。まだ進化の途中段階ということだ。

 SAを導入して初めて、真の5Gの能力を提供できるようになる。SAでは新たに5G専用の5Gコアネットワーク(5GC)を導入し、5G単独で動作するようになる。ネットワークスライシングなど高度な機能を提供できるのもこの段階からだ。

 フィンランド・ノキア(Nokia)傘下ノキアベル研究所の柳橋達也シニア・スタンダーダイゼーション・スペシャリストは「NSAの段階でとどまるような通信事業者は世界で見当たらない。最終的に5GCを導入しSA化するのが世界の既定路線だ。企業の用途ごとにカスタマイズした細かなスライスを、as a Serviceとして提供していく形が業界のトレンドになる」と強調する。

 ではどのような道筋で、世界の通信事業者はいつSAを導入するのか。柳橋スペシャリストは「SAに至る道筋は大きく2つのパターンがある」と指摘する。NSA段階の5Gサービスは、主に一般ユーザーを対象に高速・大容量を売りにしている。そこから高速・大容量の対象を企業ユーザーに広げてSAに至る道筋が一つ。もう一つは、一般ユーザーを対象にしたまま、高速・大容量に低遅延性といったサービスを拡張し、SAを導入していく方向だ。

ノキアはSA導入に向けて、左上を経由する市場を拡張するアプローチと、右下を経由するサービスを拡張するアプローチの2通りがあると分析する
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ノキアはSA導入に向けて、左上を経由する市場を拡張するアプローチと、右下を経由するサービスを拡張するアプローチの2通りがあると分析する
(出所:ノキア)

 ソフトバンクのケースはどちらに当てはまるのか。ソフトバンクの関和本部長は「まずは21年度最初の段階でSAを使った高速・大容量サービスから始める。その後、22年から23年にかけてURLLC(Ultra-Reliable and Low Latency Communications)など超低遅延の機能を追加する。この段階で産業向けにネットワークスライシングの機能も提供していきたい」と打ち明ける。どうやらソフトバンクは、柳橋スペシャリストが指摘する前者に近いアプローチを取るようだ。