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 米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)や米マイクロソフト(Microsoft)、米グーグル(Google)といった大手クラウド事業者が、5G(第5世代移動通信システム)を契機に通信事業者(キャリア)のネットワークに接近している。利用者に近い場所でサービスを提供できるエッジ(MEC: Multi-access Edge Computing)を拡充し、通信事業者のネットワーク内に進出しつつあるからだ。世界の通信事業者はクラウド大手を警戒しつつ提携を進めている。5Gに不可欠なエッジを巡って、クラウド大手と通信事業者間で駆け引きが激しくなりそうだ。

クラウド大手が5G向けエッジを立て続けに発表

 「クラウド大手は、これまで入り込めていなかったキャリア網にエッジを使って入りたがっている。利用者のニーズは高いもののキャリア網に入れるとなると、クラウド大手にどこまでビジネスを取られてしまうのか。正直、悩ましい」。国内携帯大手の設備担当者はこのように打ち明ける。

米マイクロソフトがキャリア網に急接近
米マイクロソフトがキャリア網に急接近
2020年3月に仮想化コアネットワーク機能を提供する米アファームドネットワークス(Affirmed Networks)買収を発表した。(出所:米アファームドネットワークス)

 ここに来てAWS、マイクロソフト、グーグルのクラウド大手3社は、携帯電話事業者の5G利用を念頭においたエッジサービスを立て続けに発表している。携帯電話事業者の5Gネットワーク内に自らのクラウドの出先機関を置き、クラウドよりも低遅延でアプリケーションを実行できるようにする取り組みだ。

 例えばAWSが19年12月に発表した「AWS Wavelength」。携帯電話事業者の5Gネットワーク内に、AWS機能の出先機関となるサーバーやストレージを設置し、低遅延が必要とされるアプリケーションをここで実行する。通常のAWSのクラウドを使うとネットワークの伝送などで100ミリ秒以上の遅延が発生するケースがあるところ、Wavelengthを使えば遅延を10ミリ秒以下に抑えられるという。米ベライゾン・コミュニケーションズ(Verizon Communications)やKDDI、韓国SK Telecomといった世界の大手通信事業者がAWS Wavelengthを採用する計画だ。

 マイクロソフトも20年3月、AWS Wavelengthとほぼ同様のコンセプトを持つ「Azure Edge Zones」を発表した。通信事業者の5Gネットワーク内にAzureのコンピューティングやストレージ機能を組み込み、低遅延が求められる産業IoT(Internet of Things)やAR(拡張現実)などのアプリケーションに対応できるようにする。こちらは米AT&Tやアラブ首長国連邦(UAE)のエミレーツ・テレコミュニケーションズ・コーポレーション(Etisalat)、カナダのロジャースコミュニケーションズ(Rogers Communications)、スペインのテレフォニカ(Telefonica)といった大手通信事業者が提携を表明している。

 グーグルも20年3月に同様の通信事業者向けのエッジ戦略「Global Mobile Edge Cloud(GMEC)」を発表した。AT&Tや英ボーダフォン(Vodafone)などが協業先として名を連ねる。

クラウド大手の軍門に降るか否か

 エッジが注目を集める理由は、5Gで低遅延を実現するためにはエッジが不可欠だからだ。低遅延を売りとする5Gといえども1ミリ秒の遅延時間を実現するのは無線区間のみ。分析処理などを含めて低遅延を実現するには、処理基盤を利用者に近いエッジに置くしかない。

 MECと呼ばれるこのエッジ機能は誰が作ってもよい。通信事業者自らが設置するエッジを利用するほか、前述のようなクラウド大手のエッジに頼ってもよい。もちろん両者を併用する道もある。

 通信事業者の視点で見るとエッジは、クラウドで根こそぎ米国の大手事業者に奪われたビジネスを、通信事業者に取り戻すチャンスでもある。実際、NTTドコモは20年3月から「ドコモオープンイノベーションクラウド」と呼ぶエッジ環境を自ら設置して提供している。それ故、エッジでクラウド大手と手を結ぶ通信事業者を「クラウド大手の軍門に早くも降った」と見る業界関係者も少なくない。